『【推しの子】』を大ヒットに導いた動画工房 制作スタッフ陣の凄さを紐解く

 殺された母親の仇を探す息子が、あの手この手で芸能界に切り込むという、従来のアイドルものと全く異なる切り口のアイドルアニメ『【推しの子】』。転生と芸能界と、そこに絡むサスペンス、そしてアイドル。幾重にも楽しめる娯楽要素が仕掛けられた本作は、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気を集めているが、この作品を制作しているアニメ制作会社が動画工房だ。漫画にせよラノベにせよ、原作付きアニメの成功を握る鍵として、スタッフの座組と制作会社の熱量も欠かせない要素である。『【推しの子】』大ヒットの要因を、制作スタッフの方から探ってみよう。

【推しの子】ノンクレジットエンディング|女王蜂「メフィスト」

 『【推しの子】』で監督を務める平牧大輔は、動画工房のアニメ『私に天使が舞い降りた!』の監督でもあり、愛くるしい女子小学生のワチャワチャ感を見事に演出。テレビシリーズの好評を受けて劇場版『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』も制作された。平牧監督を含め、『私に天使が舞い降りた!』のスタッフが移行した『恋する小惑星(アステロイド)』は、ある人との幼い頃の約束を胸に、高校の地学部に入部する少女の青春劇。アニメファンの間で動画工房といえば、「芳文社の雑誌『まんがタイムきらら』の漫画をアニメ化するならここ!」という安定した評価を受けている。しっとりとした感動もコメディも、すでに動画工房作品でいくつも手がけてきた平牧監督ならではの味が『【推しの子】』に表現されていると言えるだろう。ストーカーに刺されたアイドル歌手のアイが、失血しながらも2人の子どもたちに愛情を伝えて息絶える姿は、90分の拡大版で放送された第1話の山場として申し分ない感動だった。

 冬目景原作の青春群像劇『イエスタデイをうたって』で、約半分もの話数を担当した脚本家の田中仁は、『【推しの子】』のシリーズ構成と脚本に参加している。憧れの女性アイドルの子どもに転生したアイドルマニア、そして成長した子どもらが死んだ親の復讐をする……という一見突飛な設定でありながら、人間模様は地に足がついた秀逸な描写だ。インターネット上の炎上に押しつぶされた黒川あかねの心情と、彼女を懸命に助けようとするアクアたち。人の壊れやすい機敏な心と再起を描いた第6話から第7話は、芸能界とネットの闇、現実の人間関係が繊細な筆致で綴られており、原作ありきとはいえ、こういう脚本の筋運びも『【推しの子】』の大きな魅力だろう。

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