実写&非IP&オリジナル脚本の三重苦を乗り越えてヒットの『怪物』、今後の展望は?

三重苦を乗り越えてヒットの『怪物』

 先週末の動員ランキングは、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が2週連続、通算5週目の1位。週末3日間で動員37万9000人、興収5億7600万円をあげた。累計成績は動員767万5000人、興収109億6100万円となった。ゴールデンウィーク明けに一度息切れした感もあった『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』だが、公開6週目にして5億円以上の週末記録をキープをしていて、ここにきて「さすが2023年公開作品の全世界興収暫定ナンバーワン作品」な粘り強さをみせている。

 初登場作品で最上位につけたのは3位に初登場した是枝裕和監督、坂元裕二脚本の『怪物』。初日からの3日間で動員23万1000人、興収3億2500万円をあげている。同作は先日おこなわれたカンヌ映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞。まるでカンヌでの快挙をあらかじめ見据えたようなタイミングでの日本公開となったわけだが、国内での興行において是枝作品として比較対象となるのは、同じカンヌ映画祭でパルム・ドール(最優秀作品賞)を受賞した直後の2018年6月に公開された『万引き家族』だろう。

 『万引き家族』の興行は、2日間だけの先行上映を経て、その翌週に正式な公開日を迎える変則的なものだったが、その正式な公開日以降の最初の週末2日間で動員35万人、興収4億4500万円を記録している。それと比較すると、今回の『怪物』は少々物足りない数字に見えるかもしれないが、テレビドラマの映画化でもシリーズものでもないオリジナル脚本の実写日本映画として、この数字は十分すぎる結果といえるだろう。

 『怪物』にとって今後追い風になるかもしれないのは、6月16日に公開が予定されていた同じ東宝配給(『怪物』はGAGAとの共同配給)の『緊急取調室 THE FINAL』の公開延期によって、結果的に同時期に公開される大人向けの実写日本映画の競合作品が一つなくなったことだ。口コミなどによる作品の評判の広がりを受けて、今後どこまで数字を伸ばすことができるか? また、日本の実写映画をとりまく国外、特にアジア圏での環境もこの5年で大きく変化しているので、海外での興行では『万引き家族』以上の成績も期待できるのではないだろうか?

 本日6月9日にはディズニーの古典の実写化作品『リトル・マーメイド』が公開される。5月26日に公開された北米では好調なスタートをきった一方、それ以外の多くの国や地域での苦戦が報じられている。ディズニープラスをローンチして以降のディズニー、及びピクサーの作品の劇場における興行価値の低下については、本コラムで何度も取り上げてきた。同作をめぐっては、特に中国や韓国などアジア圏のマーケットにおいて人種主義にまつわるネット上のトロールなども話題となっているが、もし日本の興行が苦戦したとしても、その原因を近年のディズニーのポリティカル・コレクトネス的方針だけに求めるのは間違いであるとあらかじめ釘を刺しておきたい。

■公開情報
『怪物』
全国公開中
監督・編集:是枝裕和
脚本:坂元裕二
出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
企画・プロデュース:川村元気、山田兼司
音楽:坂本龍一
製作:東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福
配給:東宝、ギャガ
©2023「怪物」製作委員会
公式サイト:gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/
公式Twitter:@KaibutsuMovie
公式Instagram:@kaibutsumovie

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