『unknown』は全ての“吸血鬼”な人たちに贈る応援歌 貴島彩理プロデューサーが語る裏話
『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)、『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)、『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)。貴島彩理プロデューサーが手がけるドラマは、放送から数年が経った今も視聴者の心を掴んで離さない人気作ばかりだ。
高畑充希と田中圭がW主演を務める『unknown』(テレビ朝日系)では、貴島プロデューサー自ら“苦手分野”と語るサスペンスに挑戦。「最後は“愛の話”」という『unknown』にまつわるエピソードや、作品づくりで大切にしていることについて聞いた。(編集部)
まだ見ぬ魅力的な1ページを提案したい
――本作が誕生するまでの経緯を教えてください。
貴島彩理(以下、貴島):『にじいろカルテ』で高畑充希さん、『おっさんずラブ』で田中圭さんと出会って、この2人のお芝居のぶつかりあいや“化学反応”を見てみたいと思ったのが、このドラマが生まれたきっかけです。
――なぜサスペンスを選んだのでしょうか。
貴島:今作の脚本家である徳尾浩司さんと監督の瑠東東一郎さんは、『おっさんずラブ』でご一緒した大切な仲間でもあるのですが、自分にとってすごく大切なチームでだからこそ、相手に甘えてしまわないように修行しなければ、という気持ちもあって。3年越しに再集合して何をやるべきかと考えたときに、「このチームから最も想像できないものをやろう」と思って選んだのがサスペンスでした。私は人が死ぬのが苦手で、今まで自分のドラマで人を殺したこともほぼなくて……ドラマを観ていても考察が当たった試しもないのですが(笑)、苦手分野に挑んでこそ新しい発見もあるのでは、と思ってこの挑戦を選び、みなさんに付き合って頂きました。
――吉田鋼太郎さんや麻生久美子さんなど、メインキャストの起用理由についても聞かせてください。
貴島:今作は“吸血鬼”という設定や、サスペンスとラブとコメディが入り交じったジャンルレスな作風という部分も含め、みんなで手を取り合って作らないと“本当に描きたいテーマ”にたどり着くのは難しい、という漠然とした不安がありました。そんな中で「この人なら必ず同じゴールを目指してくれる」と信じられる、一度お仕事をした素晴らしい役者陣に「手を貸してほしい」とオファーをしたのだと思います。『おっさんずラブ』や『監察の一条さん』(テレビ朝日系)という主演ドラマもご一緒した吉田鋼太郎さん、『あのときキスしておけば』から麻生久美子さん、『女子高生の無駄づかい』(テレビ朝日系)から町田啓太さん、『オトナ高校』(テレビ朝日系)や『私のおじさん〜WATAOJI〜』(テレビ朝日系)から小手伸也さん。『にじいろカルテ』『あのときキスしておけば』の井浦新さんをはじめとするカメオ友情出演の役者さんも含め、みなさん快く力を貸してくださって、結果アベンジャーズのような布陣だなぁと。本当にありがたい気持ちでいっぱいです。
――千葉雄大さん、志尊淳さんなど、豪華キャストのカメオ出演には驚きました。
貴島:カメオ出演は、韓国をはじめ海外では盛んに行われているものの、日本ではまだ少ないと思っていて。その根底には作り手たちの「エンタメ界をみんなで盛り上げよう!」という意識があると聞き、日本においても『unknown』がそんな気運の牽引役になれたらという思いもありました。と同時に、私はキャスティングをするとき、初めての方にオファーするより、一度一緒に仕事した方にオファーするほうが緊張してしまう節があって……。例えば、俳優に“人生の図鑑”があるとしたら、その中で「まだ見ぬ魅力的な1ページを提案しなければ」という強いハードルを感じながらいつもオファーをしている。そうすると、1度目に自分がベストを尽くしたオファーを超えるのに、数年単位で時間がかかってしまう。でも、それだとあまりにもったいないなと思うこともあって(笑)。私自身、本当はもっとポップにたくさんお仕事をしたいし、相手にとっても楽しくて価値のある形で仕事の提案ができないものか……と思ったときに、カメオ出演という形に挑戦してみた、という部分もあります。
――田中さんと吉田さんは、言わずと知れた『おっさんずラブ』コンビですが、イメージが強いからこその懸念はなかったのでしょうか。
貴島:「おっさんずラブコンビ」と盛り上がってくださる視聴者がいるのは嬉しく思いますが、個人的にはそういう括りで2人を見る感覚はあまりないです。むしろ、お2人の芝居が、当たり前のことながら前作とは全く違うことに感嘆する日々で、2人のセッションはやはり魅力的なんだなと今作で改めて思い知りました。吉田鋼太郎さんはジャズのような人だなと思います。どこかクラシックな空気を纏っていて厳かで気品がある中に、突然のバイオレンスと爆発があるような方。“面白い”という言葉で形容しきれないというか、男性としても非常に魅力的だなと思います。田中圭さんは、そんな鋼太郎さんの爆発をキャッチするのが日本一上手な方。観ているスタッフも声を抑えきれず爆笑してしまうほどのナイスコンビだと思いますし、その2人がどんなに暴れても動じない高畑充希さんも、本当に素晴らしい俳優だなと思います。
――このキャストだからこそ、この物語が成立していると。
貴島:麻生さんも町田さんも小手さんも含め、全16人、このメンバーじゃなければできない芝居合戦。実力派の役者陣に集まっていただいたおかげで、挑戦できた作品だなと思います。
――一方で、井上祐貴さん演じる闇原漣役は、オーディションが2回あったと聞きました。
貴島:一度お仕事した方々に力を貸していただきたいと思う反面、やはり未知の人との出会いはいつも求めています。自分もそうですし、キャスト、スタッフにもそういう気持ちがあると思うので、今回は漣役をオーディションで選ばせて頂きました。
――抜擢の決め手はどのあたりだったのでしょうか。
貴島:「巧い」とか「この役に合う」ということより、「どんな人で、どんな未来を思い描いている人なのか」が大事だと思っていて。井上くんはまじめで実直な方で、アドバイスするたびに必死で食らいついて演技を変えようとする姿がすごく印象的でした。その取り組み方や伸びしろが素晴らしいなと思いましたし、この人と一緒にドラマ作りをしてみたいな、と純粋に思ったのが決め手です。