高橋一生「自分の尺度で世界を見ていくことが大事」 『岸辺露伴』を通して届けたい思い
「“本当っぽさ”は、自分の解釈でしかない」
――そして、なんと言っても本作はフランス・ルーヴル美術館で撮影をしています。高橋さんは以前、ルーヴル美術館展のオフィシャルサポーターも務めていたので、何か運命的なものも思わず感じてしまいました。
高橋:2018年にルーヴル美術館へ訪れたときは、額装をされている職人の方々へインタビューもさせていただいて、観光では入れないような場所も見せていただいたんです。本作をやるにあたっても、その経験はとても大きなものになっていました。
――原作読者としては、ルーヴル美術館での撮影と同時に、奈々瀬を誰が演じられるか、というのも発表されたときに気になった点でした。奈々瀬役の木村文乃さんの芝居はいかがでしたか?
高橋:本作では露伴の漫画家としての原初が描かれるわけですが、そこでは夢のような、幻のような存在として奈々瀬さんがいます。かげろうのような佇まいで、でも確かにそこには実態があって……という非常に難しい存在を木村さんが演じてくださったのはとても心強かったです。
――『岸辺露伴は動かない』および『ジョジョの奇妙な冒険』に共通する大テーマとして、「どんな状況も受け入れてその先に進む」というものがあると感じております。改めて、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ならではの魅力はどんなところにあると高橋さんは感じていますか?
高橋:露伴が言っていることと重なりますが、“リアル”ではなくて“リアリティ”でしょうか。リアリティ、言い換えると“本当っぽさ”は、自分の解釈でしかないと思うんです。与えられたものをそのまま受け取っているだけだと、世界のすべてが平均化されて、感じていることもみんなが同じになってしまい、世界は豊かにならない。日本では特に“好奇心”が抑え込まれてしまうような環境のような気がしていて、自分の目で、自分の感じた心で世界を見るという機会が少ないように思うんです。蜘蛛を漫画で表現するために「味」も確かめてみる行動など、露伴がやることは狂人に思われるかもしれないのですが、自分の尺度で世界を見ていくということはとても大事だなと。ですから、本作を観てくださった方が、娯楽作品として楽しんでくださることもうれしいですし、露伴の生き様に触れてこれまでと違う感覚を味わっていただけたら何よりです。僕は、17〜18歳の頃に、原作漫画で露伴に触れて、ものすごく大きな影響を受けました。「こうやって生きてもいいんだ」「こんな生き方、カッコいい!」と。露伴のことを変人と思って終わるのか、それとも違う捉え方をするのか。映画を観た方がどんなふうに思うのか、聞いてまわりたいぐらいですね。
――「世界の見え方が変わる」という点では、現在AIの発達がものすごいスピードで進んでおり、インターネットが誕生したときのような変化が起きそうな予感があります。
高橋:人間の理解の範疇に及ばないものが生まれつつある感じがしています。デジタルによって加速度的に世界が変化していく中で、放っておくと腐っていってしまう自分たちの肉体がどれだけ大事なものであるかということは、俳優をやっていると常に感じています。デジタルの便利さを享受しつつも、そこにある怖さも常に意識していたいです。
■公開情報
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』
全国公開中
出演:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、美波、木村文乃
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(集英社 ウルトラジャンプ愛蔵版コミックス 刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣装デザイン:柘植伊佐夫
配給:アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
©2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
公式サイト:kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp