『あなたがしてくれなくても』“被害者”は誰なのか? 奈緒と永山瑛太が無言の対峙
一方で、みちへの気持ちを整理し、妻の楓(田中みな実)とやり直す決意をしたはずの新名だったが、なかなかその想いが断ち切れずにいた。そんな新名の変化に楓の女の勘が働く。浮気をしていると直感した楓の問いかけにも、はぐらかすことができない。
これまで散々仕事を優先して、新名との夫婦生活をおろそかにしてきた楓は少なからずその非を認めており、「自分のせいだ」「性処理の1回や2回……」と腹をくくってみせる。だが、新名が「彼女とはそんなんじゃない」「彼女に精神的支えを求めてしまった」と、一時の衝動的な浮気ではないと言われてしまったものだから、たまらない。
「もし体の関係だけなら許せたかもしれないのに」とは、楓が拒んできた“セックス”という埋められないピースを“誰かが代わりに埋めただけだ”と思えたからだろう。でも、1つのピースがなくなっただけでも納得しないのが新名の性格だ。同じパズルをもう一度買い替えたというエピソードが、彼の結婚生活そのものにもリンクして聞こえる。
改めて、パートナーの浮気を知ったとき、「体の浮気」と「心の浮気」のどちらがより苦しいかを考えてみる。その答えは、きっとその事実を知ったときにパートナーの心がどこにあるかにかかっているのではないだろうか。
みちとの現実から逃げたけれど、「許さないでいいから、それでもここにいてほしい」と頭を下げた陽一。対して、いくらセックスというピースを埋めようとしても、もう元のように妻を愛することができそうにない新名。そうなれば、いま“愛を失った”と自身を被害者だと最も感じているのは楓なのかもしれない。
みちが陽一に何も言わずに視線だけで責めたように、次回予告では楓とみちが対峙を果たす。その表情は、まさに「自分が被害者だ」と信じてやまない。確かに新名とみちの恋では被害者といえる楓。しかし、この展開になるまでの状況を見てきた視聴者ならば、楓だって新名とのコミュニケーションを拒否し続けてきたある意味での加害者であることを知っている。
一部分だけを切り取って「こっちが加害者で、こっちが被害者」という単純な話では終われない。無言で向き合う中に、様々な意見を代弁したくなる。それが、このドラマの奥深いところだ。
被害者意識を手放し、自分にも小さな罪があったことを認められるか。それがもつれてしまった関係性の修復の第一歩なのかもしれない。しかし、愛するパートナーから心に杭を打ちつけられるのは、これ以上ないほどつらいこと。罪を背負い、心から血を流しながら、動き出した4人の行末がどうなるのかを見届けるのは、まるでホラー映画を眺めるようにゾクゾクする。
■放送情報
木曜劇場『あなたがしてくれなくても』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:奈緒、岩田剛典、田中みな実、永山瑛太、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
演出:西谷弘
プロデュース:三竿玲子
主題歌:稲葉浩志「Stray Hearts」(VERMILLION RECORDS)
挿入歌:稲葉浩志「ダンスはうまく踊れない」(VERMILLION RECORDS)
音楽:菅野祐悟
©︎フジテレビ
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