『帰れない山』監督コンビが語る“戻れない過去” 「時間は執拗に前に進んでしまうもの」

『帰れない山』監督が語る“戻れない過去”

 現在公開中の映画『帰れない山』は、戻れない過去について私たちに考えさせてくれる作品だ。

 本作は、イタリアの作家パオロ・コニェッティのベストセラーを原作に、都会育ちの少年ピエトロと牛飼いの少年ブルーノの長年に渡る友情を描く。

 監督を務めたのは、ティモシー・シャラメ主演『ビューティフル・ボーイ』のフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンと、『オーバー・ザ・ブルースカイ』の脚本を手がけたシャルロッテ・ファンデルメールシュ。両監督に本作が生まれた経緯や、原作小説を映画化するにあたって脚色を加えた部分について聞いた。

パオロ・コニェッティは理想的な原作者

――原作と出会うまでには、どんなきっかけがあったのでしょうか?

フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン(以下、ヒュルーニンゲン):機会は2度ありました。初めに「これを題材に映画を撮ってみたら?」と勧められたときは、あまり興味を持てなかったのですが、別のプロデューサーから話をもらって再び手に取ると、なぜみんなが僕に勧めてきたのかが分かりました。それは、僕のパーソナルな経験と呼応するところがあったからです。僕もフランスの山岳地帯で幼少期を過ごした思い出があり、湖で泳ぎ、家族との時間を過ごす中で得られたものが多くありました。そこには実際に、僕にとってのブルーノのような存在もいたんです。この小説は、とても純粋な人たちを描いていて、シニカルな部分があまりないところが気に入っています。

――原作者のパオロ・コニェッティともお会いしたそうですね。映画化にあたって、何かアドバイスはされましたか?

ヒュルーニンゲン:僕たちは、実際にパオロが暮らしている山で彼と会いました。その際に彼が案内してくれた場所が、そのまま映画のロケ地にもなっています。彼は自分の世界をオープンに見せてくれて、イタリア語のセリフなども彼が監修してくれました。一方で、彼は自分の小説が映画化されることに関して何の制約も設けず、僕たちの好きなようにやらせてくれたので、本当に理想的な原作者でした。

――原作から脚色を加えた箇所はありますか?

ヒュルーニンゲン:ほとんど原作に忠実だと思います。ですが、物語のペースを変えている部分がいくつかあります。少年期や思春期のパートは、導入なので少し短めにして、その分エンディングを原作よりもゆったりと描いています。

シャルロッテ・ファンデルメールシュ(以下、ファンデルメールシュ):小説と一番違いが出ているのは、“語り”の部分ですね。小説では、主人公のピエトロがナレーターの役割を果たすので、彼の頭の中に読者がいるような状態になります。ですが、映画ではピエトロが父親を失って、止まってしまった時間の中から彼が抜け出して、自ら行動する人間になるまでを“語り”ではなく“動き”で見せていく必要がありました。同時に彼の内省的な性格も残したかったので、ちょっとした仕草や表情で彼の心の壁を表現しています。

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