『名探偵コナン 黒鉄の魚影』は何度も映画館で観たい きめ細かい演出と作画の素晴らしさ

 現在、映画館で大ヒット公開中の『名探偵コナン 黒鉄の魚影』。4月14日の公開日からわずか10日間で、興行収入が58.6億円を突破する順調な動員を見せている。江戸川コナンと敵対関係にある“黒の組織”と、その組織からの逃亡者、灰原哀にフォーカスしたドラマが注目され、ゴールデンウィーク中も観客動員をさらに伸ばすことだろう。ここで本作の持つ魅力を、アニメーションの作り込みから見てみたいと思う。

 本作はキャラクターの細かい芝居が随所にあり、TVシリーズよりも手をかけて制作されているのが見て取れる。例として、アバンタイトルで阿笠博士の研究室に入ってきた毛利蘭が、鉄製の厚い扉を手で閉める動作がある。アニメに於ける動画枚数の節約、作画コストの省略という観点からすれば、研究室に蘭が歩きながら入って来る1カットで事足りるシーンなのだ。そこに扉を閉める動きをワンクッション挟むことによって、絵コンテも担当している立川譲監督の丁寧な人物芝居を楽しむことができる。

 他にも、ホテルを抜け出そうとした灰原哀が、同室で寝ている歩美の掛布団をかけ直してから部屋を出る動作がある。これもまた、布団をかける芝居を省いて進めても支障はない場面なのだが、実年齢は年上の灰原が、小学生の子の寝相を気遣う優しさが見える仕草で、こういった些細な、しかし人物を描く上で大切な動作ひとつに細やかな目配りを感じる作りだ。

 さて、劇場版『名探偵コナン』で見逃せないのは、毎度恒例の大爆破。シリーズ第1作『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』(1997年)以降、大型施設の爆発、炎上はクライマックスへ至る見せ場のひとつだが、第23作『名探偵コナン 紺青の拳』(2019年)から、エフェクト作画監督に橋本敬史を迎えている。エフェクト作画というのは爆発のみならず、立ち昇る炎や煙、水流、ビル倒壊の砂埃など、固定の形がないものを作画で見せる難易度の高い技術だ。この分野で定評のある橋本敬史を招いたことで、スクリーン向けのスペクタクルはさらに一段上のステージに上がったと言える。

 橋本の名前を聞いただけではピンと来ない人も、新海誠監督の『君の名は。』(2016年)で、隕石が墜落した糸守町の壊滅や、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2022年)に於ける、葛城ミサトが特攻で散って行く場面を作画したアニメーターと聞けば「あっ」と思うだろう。シンガポールの観光地を派手に爆破しまくった『紺青の拳』以降、公開中の『黒鉄の魚影』まで4年連続で参加し、映画の大ヒットに貢献した爆発ぶりをリピーターの方々も注目されたし。

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