神木隆之介は歴代朝ドラの中でも珍しい主人公? 『らんまん』描き続ける“自由”とは何か
本作『らんまん』で非常に興味深いのが主人公・万太郎の描かれ方だ。従来の多くの朝ドラで天才型や破天荒キャラの人物が主軸となる場合、彼や彼女たちは自分が背負っているものや周囲の困惑、迷惑など顧みず、己が望む道を突き進みその夢を叶えてきた。
だが万太郎は違う。幼少時より植物に多大な関心を持ち、植物のこととなると我を忘れる一面がありながら、幼い時分より支えてくれた竹雄から「若は自分たちを捨てるがですか?」と問われた時より自らの立場と責任について深く考え、一度は植物の研究を諦める。
万太郎は一種の天才でありつつ、市井(しせい)の人々の立場や考えも想像し慮れる朝ドラには珍しいハイブリッド型の主人公なのだ。
私たちは万太郎がこの先、日本の植物学の父と呼ばれる存在となることも、東京の博覧会の会場で出会った和菓子店の娘・寿恵子(浜辺美波)と結ばれることもわかっている。だからこそ、彼がどうやって家業から離れ、植物学の道を歩むのかその過程を知りたいのである。脚本の長田育恵は主人公・万太郎だけに光をあてるのでなく、性別や立場に縛られ生きざるを得ない綾や竹雄の心情も丁寧に描き、繊細な“自由”の三重唱を紡いだ。ここまで万太郎の映し鏡のような綾と竹雄の存在があったからこそ、視聴者は主人公に気持ちを添わせることができたのだ。
おそらく第5週で万太郎は峰屋の跡取りとしての立場を放棄し、自らが愛し望んだ植物学の世界へと進む決意を固めるのだろう。さらに綾は女性でありながら酒造りの道に進みたいと声を上げ、身分の違いという呪縛に縛られていた竹雄もとうとう綾に想いを告げる。中濱がアメリカに置いてきてしまった“自由”が明治という時代に少しずつ芽を吹いてゆく。
派手ではないし外連味もない。だが、丁寧な脚本と誰かの言葉を聞く他の登場人物の表情を静かに映し出す繊細な演出、見事に役にハマった俳優陣が織りなす『らんまん』。せわしない日々の中、優しいギフトを贈ってくれる朝ドラである。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK