『ペンディングトレイン』山田裕貴の鬼気迫る芝居に息を呑む 信頼と裏切りが交差する物語

『ペンディングトレイン』鬼気迫る山田裕貴

 山田裕貴の鬼気迫る芝居に思わず息を呑んだ。『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系/以下『ペンディングトレイン』)の第1話が放送され、電車の車両ごと「別世界」にワープした乗客らは極限の中でサバイバル生活を強いられる。物語の冒頭から描かれる強烈な人間模様が視聴者の心をガッチリと掴んだ。

 その朝、カリスマ美容師の萱島直哉(山田裕貴)は、とある人物に会うべきかと迷いながら電車に乗り込んだ。だが、その電車は岩だらけの樹海や砂漠の広がる「別世界」に飛ばされてしまう。偶然、同じ電車に乗り合わせた消防士の白浜優斗(赤楚衛二)が乗客を救おうとすぐに指揮をとる。名簿を作り、傷病人の教護にあたるなど、体育教師の畑野紗枝(上白石萌歌)と協力しながら一人でも多くの命を救おうとしていた。だが協調することを嫌う萱島は一人で樹海に入っていき、足を滑らせ地面の深い割れ目に落ちそうになってしまう。そこに現れたのが、白浜だ。逞しい腕で萱島を崖から救い出し、命の恩人となる。だが萱島は助けてもらっても、なお白浜や畑野に心を開けずにいた。その理由は、萱島の弟にあったのだ……。

 雄大なロケーションの中で繰り広げられる役者陣の本気のぶつかり合いが熱い『ペンディングトレイン』。閉塞状態の中で徐々に不信感が生まれるが、それでも乗客は協力しなければ生きられない。そんな繊細な心の動きが、一瞬も目を離せない緊張感を生んだ。

 不安定な人間関係の中で、実は乗客の多くが元の世界に「悔いも希望も」あったことが描かれた。白浜がなぜこんなにも人を助けたいと強く願うのか、畑野がこんな状況の中でも生きることを諦めないのかを、赤楚衛二や上白石萌歌は真っ直ぐに演じる。

 そして赤楚の熱く燃える演技に、静かに呼応していくかのような山田の芝居は必見だ。罪を犯してしまった弟との関係に心を痛める萱島は、樹海の真ん中で心の内を見せる。苔むした岩の上で涙を流し、大切な弟が犯した罪の重さ、受け入れきれない苦しみ、報われなかったがんばり、孤独と対峙する。こんな状況の中でも誰にも明かせずに、一人樹海の中で涙する山田の姿は視聴者の心をも苦しくさせる。1話にして、萱島という男が抱える生い立ちや、直面する問題のシビアさがはっきりと視聴者に提示された。

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