石ノ森章太郎愛溢れる『シン・仮面ライダー』 昭和ライダー世代に刺さる“本当のカッコよさ”
石ノ森章太郎が描き続けた“悲しさ・儚さを携えたヒーロー”
悲しく儚いのは、本郷猛だけではない。飄々としているが、実は号泣するほど辛い過去を背負った仮面ライダー2号・一文字隼人(柄本佑)も。戦うためにクールさを演じているが、本当は普通の女の子のように甘えたり笑ったり泣いたりしたい緑川ルリ子(浜辺美波)も。
本来“悪”側のオーグたちまで悲しい。特筆すべきはハチオーグ・ヒロミ(西野七瀬)だ。ルリ子曰く「友達にいちばん近い存在」(友達とは言わない)。ルリ子たちとの戦いを楽しんでいるようだが、その笑いの奥には諦念が見える。だからこそ、最期の言葉通り、「ルリ子に殺してほしかった」のだ。
先述のライダーキックをあれだけ強インパクトに描いておきながら、クライマックスはグダグダの泥仕合で終わる。ショッカー殲滅にまで至っておらず、本当のクライマックスではないからだ。物語は、コブラオーグとの戦いに向かう2号ライダーの姿を描いて終わる。原作通りなら、このコブラオーグは女性型オーグとペアを組んで戦う。そしてこの2人は、「人間時代は恋人どうし」だったのだ。もうこの設定だけで泣けてしまう。この時点で、原作ならちょうど中盤辺り。コブラオーグとの悲しい戦いは、原作ファンなら絶対に観たいエピソードである。
ただカッコいいだけではない、悲しさ・儚さを携えたヒーロー。石ノ森章太郎が描き続けたそんなヒーローを、庵野秀明が愛をもって蘇らせた。その重すぎる愛に、どうか触れてほしい。本当にカッコいいとはどういうことか、わかるはずだ。
■公開情報
『シン・仮面ライダー』
全国公開中
出演:池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、竹野内豊、斎藤工、大森南朋、長澤まさみ、西野七瀬、松坂桃李、森山直太朗、塚本晋也、手塚とおる、松尾スズキほか
原作:石ノ森章太郎
脚本・監督:庵野秀明
配給:東映
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
公式サイト:https://shin-kamen-rider.jp
公式Twitter:https://twitter.com/Shin_KR