『舞いあがれ!』高畑淳子の「帰りたかぁ」が切なく響く ばんばの五島に馳せる想い
『舞いあがれ!』(NHK総合)第124話では、パリにいる貴司(赤楚衛二)がこれまで舞(福原遥)がかけてくれたいろんな言葉を思い出し、ペンを手に取った。
2020年4月。日本でも新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言が出された。先の見えない状況の中、IWAKURAもこんねくともABIKILUも、曜日ごとに出勤する人を変えたり、オンラインでできることを始めたり、徹底した感染対策に務めるなど、できる限りのことをする。そんな第124話で印象に残るのは、帰りたいと願う貴司と祥子(高畑淳子)の姿だ。
短歌が詠めずに苦悩していた貴司は、舞の言葉を思い出してペンを取り、随筆を書き始めた。今パリで何が起こっているのか、見て聞いて考えたことを言葉にしているのだという。「舞ちゃんへの手紙のつもりで書いてる」と話す貴司の表情はやわらかく、根詰めていた時期からは解放され、貴司らしい穏やかさを取り戻しているのが分かる。再び言葉に向き合えるようになった貴司は、以前よりも素直になったように思える。貴司は電話の向こうにいる舞に呼びかけると、恥じらうことも言い淀むこともなく「会いたい」と伝えた。「家、帰るわ」「うん、待ってる」とごく普通の言葉を交わす貴司と舞のやりとりにホッとさせられる。
一方、緊急事態宣言が出される中、祥子は元気を失っていく。祥子は子どもたちの居場所でもあるデラシネを開けようとするが、めぐみ(永作博美)に止められる。「母ちゃん、そん歳で感染したら命に関わるとよ。お願いやけん、今は外に出らんで」と願うめぐみの気持ちは視聴者にも痛いほど伝わったことだろう。しかし、祥子が店番をするデラシネは子どもたちの居場所でもあれば、祥子自身の居場所でもある。人との関わりを絶たれ、元気をなくした祥子の視線の先には五島のみんなが映った写真があった。祥子が弱々しい声で「帰りたかぁ。五島ん帰ってみんなに会いたか……」と呟く姿が切ない。