『舞いあがれ!』悠人のプロポーズの言葉は美しく優しい 演出・演技が最高だった婚約報告

『舞いあがれ!』悠人と久留美が婚約

 良い知らせと悪い知らせが同時に来る。『舞いあがれ!』(NHK総合)第123話は、最終話を目の前に、着実に世界が新型コロナウイルスの脅威に向かっていく様子が描かれた。

 ついに、久留美(山下美月)と悠人(横山裕)が婚約! 長崎で仕事をする久留美に対し、なかなか会いに行けないことを申し訳なく思っていた悠人。しかし将来の2人のことは考えていると、悠人は久留美に伝えていた。そのため彼らが結婚する結末は想像に容易かったが、まさかこんなに早いタイミングになるとは。

「どうせ人間1人で生まれて1人で死ぬんや。そやけど、今から人生50年くらい2人で生きるのも悪くないと思う。一緒に生きていたい、結婚しよう」

 悠人のプロポーズの言葉は美しいだけでなく、優しい。第122話でパリにいた八木(又吉直樹)が1人で生きていく立場の者として貴司(赤楚衛二)に残した言葉もそうだが、『舞いあがれ!』は従来の朝ドラが描く“みんな家族になったり、誰かと一緒になったりすることでハッピーエンド”という型に当てはまらない。物書きとしての苦悩や孤独な生き方、本当に目指していた夢から遠ざかりながらも、とにかく今目の前にある自分の叶えようとするヒロインの生き方など、さまざまな生き方が本作では提示された。幸せの形や生き様が一つに決められているわけではない。だからこそ、それを前提とした悠人のプロポーズの言葉はより開かれたものに感じる。この空気感は、桑原亮子がメイン脚本を手掛けたからだろう。彼女の担当した最終週の物語には、美しいセリフが溢れている。

 それはセリフだけではない。演出もそうだ。悠人のプロポーズを受けて承諾する久留美。2回目の結婚指輪を見る手は震えていて、幸せを感じていると同時に「今度こそはどうか、この人とはちゃんと一緒に生きていけますように」という願いがこもったような表情を見せる。久留美の一度目の婚約は、彼女自身だけではなく父・佳晴(松尾諭)の心にも傷を残した。だからこそ、あの辛い出来事が起きたカフェ「ノーサイド」で悠人は佳晴に結婚の許しをもらいにいく。前回、許すどころか勝手に許されない人間にされてしまった佳晴に向ける敬意。これまで何度も彼の面倒を見てきた悠人だから、「大丈夫、あなたは立派な人だ」と彼に伝える意味も込めて「娘をください」と言っているように感じ、思わず目頭が熱くなる。そこで佳晴がふと久留美の気持ちを確かめるために彼女の表情を見て、それに安堵した笑みをこぼしながら、今度はすぐ泣きそうになる演技、演出の全てが素晴らしい。「よろしくお願いします」と頭を下げる佳晴。みんなで泣いた。

 その後に続くめぐみ役の永作博美によるセリフの出し方も良い。悠人から婚約の報告を受けた彼女は「おめでとう」と言った後に「久留美ちゃん、ありがとう」と少し間を持たせて言う。その間の中に、親として「いろんなことがあった息子をよろしくお願いします」というニュアンスも感じ、久留美もそれを受け取ったような表情をした。言語と非言語のやり取りが同時に行われ、その二つがしっかり描かれるからこそ、キャラクターの心境がより理解しやすくなっている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる