『罠の戦争』権力の坂を転がり落ちる鷲津 杉野遥亮が体現した怒りと絶望

『罠の戦争』杉野遥亮が体現した怒りと絶望

 疑心暗鬼に陥った鷲津は、周囲の人間も敵に見えるのか。蛍原(小野花梨)に疑いの目を向け、鷹野に暴言を吐き、注意した可南子に逆上する鷲津は、正直見ていられなかった。何が鷲津を変えてしまったのだろうか。その答えは鶴巻との会話にあった。総理大臣の首をすげ変えることで国民の不満の矛先をそらしてきた鶴巻は、「政治を守ってきた」と自負する。権力にしがみつくと責める鷲津に、鶴巻は「同じだろ。君だって」と返した。

「気持ちいいだろ? 力を使って誰かを救うのって」

 誰かのために善をなす。そのためにさらに力が必要となり、善を重ねるうちにいつしかそれは悪と呼ばれるようになると鶴巻は説く。権力に囚われているのは鷲津も同じであると言うのだ。鶴巻の論理には再考の余地があるものの、権力に囚われているという指摘はその通りだろう。それと同時に議員という立場の危うさも感じる。「選挙で落ちたらただの人」という台詞もあったが、有権者の代表である議員は、実はとても不安定な足場の上に立っている。そのことと自らのエゴで権力を行使することは別の話ではあるが。

 眞人(杉野遥亮)はマダケについて語る。しなやかで折れないマダケは、120年に1度しか花を咲かせない。鷲津をマダケにたとえた眞人は、のちにマダケが花を咲かせて枯れることを伝えた時、どんな思いだっただろう。兄を死に至らしめた原因が鷲津にあると知ってから、眞人はずっと苦しかったはずだ。それでもひたむきに弱い立場の人に尽くす鷲津を目にし、自身の葛藤を乗り越えてきた。眞人の中に鷲津を許す気持ちはあり、以前の鷲津に戻ることを願っていた。だからこそ経営に困っている人の陳情書を取り次ぎ、鷲津にわかるように自身の存在を知らせたのだ。眞人にとって決定的な瞬間はひそかに思いを寄せる蛍原が鷲津に疑われた時だったかもしれない。蛍原に向けられた心ない言葉を耳にして、眞人は自身の願いがむなしく散ったことを知った。

 見ているのに、見えていない。目の前にいる人の存在を忘れてしまった時、知らないうちに道を外れていると言えないだろうか。心が死んでしまえば、もはや救うことはできない。心の支えである泰生(白鳥晴都)に「最低」と言われてやり場のない感情を抱える鷲津には、まだ自分を恥じる心が残っていると信じたい。

■放送情報
『罠の戦争』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:草彅剛、井川遥、杉野遥亮、小野花梨、坂口涼太郎、白鳥晴都、小澤征悦、宮澤エマ、飯田基祐、本田博太郎、田口浩正、玉城裕規、高橋克典、片平なぎさ、岸部一徳ほか
脚本:後藤法子
演出:宝来忠昭
演出・プロデューサー:三宅喜重
プロデューサー:河西秀幸
音楽:菅野祐悟
主題歌:香取慎吾×SEVENTEEN「BETTING」(Warner Music Japan)
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/wana/

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