『6秒間の軌跡』最高の“自己満足”が詰まった最終回 すべてのエンターテイナーへ敬意を

『6秒間の軌跡』最高の“自己満足”の最終回

 思えばこの3年間、こうした素晴らしき自己満足は不要不急のもとして制限されてきた。そんな中、2021年の舞台『フェイクスピア』で大いに人々を感動させ、芸術文化の必要性を改めて提示した高橋と橋爪。元々は橋爪の「一生とドラマをやりたい!」というラブコールに高橋が答える形で実現したこのドラマだって、見ようによっては自己満足だ。しかし、普段から仲の良い2人の小気味好いやりとりや、その空気感の中でいつもよりのびのびと感じられる本田の芝居。それから星太郎がイマジナリー親父離れできることをゴールとしない脚本家・橋部敦子らしさが詰まったこの物語が私たちの心を捉えた。

 一方、幽霊の航は星太郎の花火師としての覚悟を見届け、安心したのか成仏する。彼が亡くなる間際、星太郎に告げた「すまん」は理代子とのことではなく、星太郎に狭い世界しか見せてやれず、花火師以外の道を選べないようにしてしまったのではないかという後悔から出てきたものだったのだろう。だけど、星太郎が花火師になったことだけは、誰かに流されたとか仕方なくとかではなく、自分自身で決めたことだ。第1話の冒頭、航が上げた花火に心震わせる星太郎の表情を見れば分かる。

 星太郎の憂鬱が晴れた時、私たちの憂鬱も晴れる。今年の夏は各地で花火大会が復活するだろう。「ヒュ~……ドン!」という今や懐かしい音とともに、職人それぞれのこだわりが詰まった花火が頭上に上がればきっと思い出す。この『6秒間の軌跡』というドラマのことを。

 星太郎が縁側に座り、微笑むシーンから引きでドラマのセットを見せ、「この番組はフィクションです」という言葉で締め括るラストはあらゆる“エンターテイナー”のリスペクトに溢れていた。

■配信情報
土曜ナイトドラマ『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』
TVer、TELASAにて配信中
出演:高橋一生、橋爪功、本田翼
脚本:橋部敦子
監督:藤田明二(テレビ朝日)、竹園元(テレビ朝日)、松尾崇(KADOKAWA)
ゼネラルプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、山形亮介(KADOKAWA)、新井宏美(KADOKAWA)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:KADOKAWA
©テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/6byoukannokiseki/
公式Twitter:@6secEx

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