『零落』端役まで恐ろしいほど絶妙なキャスティング 斎藤工が流す涙にえぐられる

『零落』斎藤工が流す涙にえぐられる

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、漫画『スキップとローファー』(講談社)と『正反対な君と僕』(集英社)を最近一気読みして悶えている石井が『零落』をプッシュします。

『零落』

 アラフォーに片足を突っ込んだ年齢になった近頃、唐突に高校時代のなんでもない瞬間がよぎったり、夢に見ることがあります。現在も決して不幸せではなく、「あの頃は良かった」「あの頃に戻りたい」と思っているわけではないはずなのに。そんな思いが出てくるのは、最近一気読みした漫画『スキップとローファー』と『正反対な君と僕』のせいかもしれません。

 2作とも高校生の恋模様というよりは人間模様と心模様を、驚くべきほど丁寧に描いた作品です。本作に救われるティーンエイジャーは非常に多いだろうなと感じたのと同時に、かつて若者だった大人世代もきっと“救われる”のではないかと思います。2作ともまだ連載中なので、一気読みして追いつくことオススメです!

 そんな漫画に影響を受けてほんわか気分で観て一気に落とされたのが映画『零落』でした。本作は漫画が原作の映画であり、主人公も漫画家。原作者は『ソラニン』などの浅野いにおです。私にとって浅野いにおは、好きだけど、友人に好きと言うのはためらう、何とも言えない作家でした。彼が描く漫画の主人公が持つ過剰な自意識と、夢をこじらせて社会を敵にしてしまう弱さが、大学生頃の自分と重なるところが多かったからだと今は思います。

 『零落』は長期連載を終えた漫画家・深澤薫が、漫画編集者の妻や担当編集者、漫画業界に“理解されない”中で深く堕ちていくが……という物語です。監督・竹中直人の演出によって、原作漫画以上に嫌な気持ちになるシーンはよりエグく……それでも、行くところまで行ったら救いがある、心動かされる一作となっていました。

 「キャスティングした時点で演出は終わっている」と語る監督もいますが、本作はその言葉がハマりすぎるほどに、出演者全員が完璧です。自身も映画監督としても活躍しているように、ものづくりの喜びも苦しさも理解している斎藤工は深澤薫にハマりすぎていました。『ヒヤマケンタロウの妊娠』(Netflix・テレビ東京)で観た爽やかな笑顔はどこへやら、ボソボソしゃべる声色に、すべてを諦めているように見える後ろ姿……全身からにじみ出る“救われることはない”オーラが絶品でした。

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