今アメリカで最もヤバいクリエイター 『リハーサル』でネイサン・フィールダーを目撃せよ

不条理リアリティショー『リハーサル』に注目

 誰の人生にも、いくつかの一世一代の大イベントが訪れる。告白をしたり、親になったり……それらの人生イベントを「周到にシミュレーションし、リハーサルして本番に備えよう」というのが、『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』のコンセプト。アメリカではHBOで放送され、カルト的な人気を集めたリアリティショー&モキュメンタリーシリーズが、3月10日よりU-NEXTで配信されている。

 ショーランナー兼出演者のネイサン・フィールダーは、カナダ出身のコメディアン。彼が高校時代に所属していた即興コメディグループには、セス・ローゲンがいる。コメディ・セントラルで放送されたリアリティショー『Nathan For You(原題)』では、中小企業コンサルタントとして、難航するビジネスのテコ入れを行う設定。このシリーズのためにLAで撮影された「Dumb Starbucks」の回は、突然現れた人気コーヒーチェーン模倣店に、客やスターバックスの店員が困惑する様子を捉える。

Nathan For You - Dumb Starbucks - Open for Business

 『Nathan For You』の人気を受けて、フィールダーは2019年にHBOと包括契約を締結。2022年7月からHBOで放送・配信された『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』では、人生の一大イベントを控えた人の不確実性を減らすために、イベントが行われる場所の設営から段取りまで詳細を“リハーサル”する。周到に段取りすることによって、相手の出方を予測し、不測の事態に備えようという試みだ。フィールダーは画面越しに問う。「たった一度の間違いが、あなたの生活の全てを台無しにするかもしれないのに、なぜ人生を偶然に任せるのか?」。

 第1話の主人公は、仲間に学歴詐称をしていたことを悔い、真実を告白したいという男性。依頼主のアパートや告白場所となるバーのセットを作り、仲間役を演じる俳優を雇い、心理学を参照し脚本を練り上げる。HBOの潤沢な予算を使い、リハーサルのためにお金とリソースを投入する。シリーズの中心になる“子供を持つリハーサル”は、子供の成長に即し数人の子役を雇うが、労働基準法に抵触しないために数時間ごとに代役を投入する徹底ぶり。フィールダーはこの実験的リハーサルから、人間の存在や経験を形而上学的に捉えようとする。クライアントの依頼を受けているはずが、やがて自身のアイデンティティに大きな影響を与えるユダヤ教の存在に迫っていく。フィールダーの実験はエピソードを重ねるごとに内省的になり、人間の行動と心理の哲学的な探究に近づいていく。だんだんと「一体何を見せられているのだか」と、笑うやら呆れるやら、観客の感情も忙しなく動かされる。

 放送中にシーズン2更新が発表され、HBOのプロデューサーはこうコメントする。「シーズン2がどのような展開になるのか皆目見当もつきませんが、それこそが真に特異な才能が生み出す、境界突破シリーズの醍醐味です」。誰もネイサン・フィールダーを止めることはできない。

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