第95回アカデミー賞直前予想! 『エブエブ』強し、鍵は“アメリカ内外意識差”と“選好投票”

第95回アカデミー賞受賞結果を直前予想

★=本命 ●=対抗 ▲=番狂わせ

助演男優賞

キー・ホイ・クァン ©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

ブレンダン・グリーソン『イニシェリン島の精霊』
ブライアン・タイリー・ヘンリー『その道の向こうに』
ジャド・ハーシュ『フェイブルマンズ』
バリー・コーガン『イニシェリン島の精霊』
★キー・ホイ・クァン『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 ベトナム難民→『インディ・ジョーンズ』『グーニーズ』子役→映画制作裏方→30年ぶりの俳優復帰という、よくできたハリウッド映画みたいなキー・ホイ・クァンの歩む人生こそオスカー級。第80回ゴールデングローブ賞助演男優賞受賞スピーチで「最初のチャンスをくれた人の恩を忘れるなと育てられました。スティーヴン(・スピルバーグ)、ありがとう!」と叫んだ瞬間、この受賞はロックされた。アジア系の助演男優賞受賞は第57回(1985年)のハイン・S・ニョール(『キリング・フィールド』)以来、マイノリティ人種では過去に12回10名が受賞している。95回目にしてこの数字である。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(以下、『エブエブ』)になんの食指も動かされないヨーロッパ勢の票がバリー・コーガンに集中したら番狂わせの可能性も考えられるが、『イニシェリン島の精霊』から2人ノミネートされているため、票が割れそう。

Ke Huy Quan: 80th Golden Globes - Best Moments

助演女優賞

ジェイミー・リー・カーティス ©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

▲アンジェラ・バセット『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
ホン・チャウ『ザ・ホエール』
●ケリー・コンドン『イニシェリン島の精霊』
●ジェイミー・リー・カーティス『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
▲ステファニー・スー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 予想最難関部門。通常通りだとアンジェラ・バセットだが、海外票と前哨戦の結果からケリー・コンドンとジェイミー・リー・カーティスのどちらかと予想。カーティスはSAG賞で助演女優賞を受賞したが、なんと自身の受賞スピーチで共演者のミシェル・ヨーを熱烈応援。その美徳こそハリウッドが得意とする“Pay It Forward精神”(自分が受けた恩を後進に送る恩送り)だが、例年だとオスカー前夜のインディペンデント・スピリット賞が今年は投票期間中に行われ、ステファニー・スーがブレイクスルー賞を受賞。ハイヒールを両手に持って跳ねるように登壇したパフォーマンスもフレッシュで、これを見た投票者は心を動かされたかもしれない。ただし、同作品から2名ノミネートで票割れが起きるとケリー・コンドンが有利、『エブエブ』の作品賞推しアジア勢と同調したマイノリティグループ票がまとまるとアンジェラ・バセット復活の兆しも。

STEPHANIE HSU wins BEST BREAKTHROUGH PERFORMANCE at the 2023 Film Independent Spirit Awards.

主演男優賞

オースティン・バトラー ©︎2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

★オースティン・バトラー『エルヴィス』
●コリン・ファレル『#Oscars 』
●ブレンダン・フレイザー『ザ・ホエール』
ポール・メスカル『aftersun/アフターサン』
ビル・ナイ『生きる LIVING』

 前哨戦からはコリン・ファレルとブレンダン・フレイザーが強いかと思われたが、BAFTAでオースティン・バトラーが受賞し、形勢が一気に変わった。『ザ・ホエール』の作品人気が低いのが気がかりで、俳優賞に4名入れてアイルランド攻勢を築いた『イニシェリン島の精霊』組がコリン・ファレル票に集中すると、ひっくり返すこともできそう。

主演女優賞

ミシェル・ヨー ©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

●ケイト・ブランシェット『TAR/ター』
アナ・デ・アルマス『ブロンド』
アンドレア・ライズボロー『To Leslie(原題)』
ミシェル・ウィリアムズ『フェイブルマンズ』
★ミシェル・ヨー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 賞レース序盤からケイト・ブランシェットとミシェル・ヨーの一騎討ちだったところに割って入ったのがアンドレア・ライズボロー。オスカー候補者昼食会も、唯一の前哨戦候補のインディペンデント・スピリット賞も欠席し、ライズボローの満を持したレッドカーペット降臨まで計算し尽くされている。ライズボローのキャンペーンマネージャーにはすでに仕事が殺到していることだろう。それでも、ミシェル・ヨーのアジア系初、有色人種2人目の主演女優賞受賞となるだろう。YouTube配信だったSAG賞で放送禁止用語を口走ってしまったミシェル、同じく配信オンリーのインディペンデント・スピリット賞では「決してFワードは使いません」とスピーチしていたが、アカデミー賞はネットワークTVが数秒遅れで放送するのでご安心を。

MICHELLE YEOH wins BEST LEAD PERFORMANCE at the 2023 Film Independent Spirit Awards.

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