第95回アカデミー賞直前予想! 『エブエブ』強し、鍵は“アメリカ内外意識差”と“選好投票”

第95回アカデミー賞受賞結果を直前予想

 アメリカ現地時間3月12日夜に授賞式が行われる第95回アカデミー賞。昨年の第94回の各賞受賞作を覚えているだろうか? 主演男優賞受賞のウィル・スミスと、長編ドキュメンタリー部門のプレゼンターを務めたクリス・ロックの一件で、映画の祭典が何を祝ったのかが吹っ飛んでしまった残念な授賞式だった。当事者の二人は1年が禊期間だったのか、同時期に沈黙を破っている。スミスは3月1日に行われたアフリカン・アメリカン映画批評家協会賞(AAFCA)の受賞スピーチで映画業界へのカムバックを宣言した。一方、ロックは3月4日に行われたNetflix初のライブストリーミング番組『クリス・ロックの勝手に激オコ』内で、「1年前に引っ叩かれたのに、いまだに『痛かった?』と聞かれる。今でも痛いよ!」と切り込んできっちり笑いをとった。95回目を数える今年は、トーク番組などの手堅い仕事が評価されるジミー・キンメルが司会に就任。2017年、2018年と司会を務めた経験を活かし、「映画を祝福する夜」の原点回帰となるだろうか。

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 今年のオスカー予想は、例年にないほどイージーな部門と、前哨戦のデータだけでは計り知れない部門にはっきり分けられる。その差を形成するのは、アカデミー賞投票権を持つ92カ国9579名(2023年1月現在)のAMPAS(映画芸術科学アカデミー)会員のうち、米国人(在米)会員と海外会員の意識の乖離だ。2012年のLAタイムズによる調査報道で、5765名のメンバーのうち94%が白人、77%が男性、86%が55歳以上で平均は62歳というデータが示された。それから約10年、外国人や人種・性的マイノリティに属する会員を積極的に招待し、会員数は60%増となった。AMPAS会員は17の支部に分けられ、それぞれの部門のノミネーション投票を行う(作品賞と長編アニメーション部門のみ全員が投票)。そうして選出された候補から、本選では約9500名全員が投票する。

 ちなみにこの支部別投票を巧みな戦術で攻略したのが、前評判・前哨戦でノーマークながら主演女優賞候補になった『To Leslie(原題)』のアンドレア・ライズボロー。巨額のキャンペーン予算を使って試写会を行い、LAの街中にビルボード広告を出し、業界誌にFYC(ご検討ください)広告を打つ代わりに、グウィネス・パルトロー、ジェーン・フォンダ、デブラ・ウィンガーといったオピニオンリーダーたちが主導しライズボローの支持を広めていった。支持者のひとり、女優のフランシス・フィッシャーはInstagramで、「俳優支部の1302人中218人がアンドレア・ライズボローを1位指名投票すれば主演女優賞にノミネートされます!」と投稿している。(※)

 主演女優賞候補は、ライズボロー&白人女優のコンボで選考投票を突破、下馬評の高かった2人の黒人候補が選外に押し出されてしまう大波乱が起きた。ライズボロー陣営のアグレッシブな草の根キャンペーンはアカデミー賞の規定に抵触していないにもかかわらず問題視され、AMPAS理事会の審議にかけられた。2024年以降はSNS運用などのキャンペーン規則が見直されるという。AMPAS理事会は2022年4月に、ウィル・スミスの今後10年間のアカデミー賞授賞式出席を禁じる罰則を科している。

 アカデミー賞のノミネーションは選好投票と優先順位付投票制で選出し、本選では作品賞のみが選好投票方式。均等に票を振り分ける選挙方式で、上位指名が多く、下位指名が少ない作品が有利となる。作品賞は、1位指名が最も少ない作品の票が2位指名に振り分けられ、以降3位、4位と最終的に全投票数の50%を占めるまで計票が繰り返される。ノミネーションの際は、全投票数を枠数+1で割った数がマジックナンバー(当確ライン)となり、前述のフィッシャーが言う「218票」は主演女優賞候補入りのマジックナンバーだった。忘れてはいけないのは、本選は17支部約9500人全員が投票するということ。10部門11候補で最多ノミネーションの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は米国内組合賞、在北米批評家による賞では圧倒的強さを見せたが、英国アカデミー賞(BAFTA)では編集賞のみ受賞、ドイツ映画の『西部戦線異状なし』が作品賞、監督賞、脚色賞、外国語作品賞など7部門で圧倒。BAFTAでは俳優賞候補の40%が人種的マイノリティグループに属していたのにもかかわらず、受賞者49名全員が白人だった。各種組合賞も、主に在米組合員による賞のためオスカー投票者とは属性が異なる。AMPASがこの10年間でアメリカ以外の投票者を増やし続けた結果が、2020年の『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)、2021年の『ノマドランド』(クロエ・ジャオ監督)、2022年の『コーダ あいのうた』(シアン・ヘダー監督)といった“オスカーらしからぬ”作品の受賞につながったとしたら、今年はどんな結果となるだろうか。アメリカ内外意識差と選好投票が予想の鍵となる。

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