アカデミー賞作品賞は『フェイブルマンズ』が最有力　『RRR』がサプライズを起こす？

　秋のヴェネチア国際映画祭とトロント国際映画祭で有力作品が見えてきて、年末にかけて発表される全米各地の批評家協会賞で大方の勢力図が作られていき、ゴールデングローブ賞の受賞結果と各部門の組合賞のノミネーションを受けてその年のアカデミー賞の全体図が完成する。昨年の『ドライブ・マイ・カー』の日本映画初の作品賞候補という快挙からもう1年が経とうとしているのは驚きだが、とにもかくにも1年間で最も楽しいシーズンが佳境を（ある意味ではアカデミー賞のノミネート発表が盛り上がりのピークのようなものだ）迎えようとしている。

　現地時間1月10日に発表された第80回ゴールデングローブ賞。まずはその主要な受賞結果から見ていきたい。作品賞（ドラマ部門）はスティーヴン・スピルバーグの『フェイブルマンズ』で、同作は監督賞も併せて受賞。スピルバーグはこれで史上最多タイの監督賞受賞者となった。また作品賞（ミュージカル・コメディ部門）はマーティン・マクドナー監督の『イニシェリン島の精霊』で、同作はコリン・ファレルの主演男優賞（ミュージカル・コメディ部門）と脚本賞の合計3冠を達成した。

　ドラマ部門の主演男優賞を『エルヴィス』のオースティン・バトラー、主演女優賞を『TAR/ター』のケイト・ブランシェット、ミュージカル・コメディ部門の主演女優賞を『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』（以下、『エブエブ』）のミシェル・ヨーが受賞。同作で20年ぶりにハリウッド映画に復帰したキー・ホイ・クァンが助演男優賞に輝き、助演女優賞には『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』のアンジェラ・バセットが、マーベル作品として初の演技部門に輝いた。

　率直な感想としては、助演女優賞はやや意外な選択がされた印象を受けるが、それ以外は極めて順当な結果ではないだろうか。事実上のゴールデングローブ賞の最高賞である作品賞（ドラマ部門）は、同賞の歴史のなかで3度だけ例外があるが、受賞＝アカデミー賞作品賞ノミネートを勝ち取ったと考えてもいい部門だ。それどころか、ノミネートされた約半数の作品がそのままアカデミー賞作品賞という栄冠に到達しているのである。つまりは『フェイブルマンズ』は、第95回アカデミー賞の“最有力候補”であると断言できる。

　一方で、作品賞（ミュージカル・コメディ部門）は一昨年の『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』のような意外なチョイスをするので一概には計り知れない部分があるが、『イニシェリン島の精霊』は危なげなく“対抗馬”として位置しており、主演男優賞と脚本賞に関しては受賞の可能性も極めて大きい位置にいる。なによりも、各地の批評家協会賞で圧勝を繰り広げている『エブエブ』を退けたことは大きい。実際、各批評家協会賞においては『エブエブ』を『イニシェリン島の精霊』が追いかける情勢が続いており、第95回アカデミー賞は熾烈な三つ巴の様相となることが予感できるわけだ。

　2020年から始まったコロナ禍で、映画業界の流れが一変したことは改めて説明する必要もないだろう。特にこの2022年は、コロナ禍によってプロダクションがストップしたことの余波を受けて作品不足の懸念に一年を通して見舞われ続けていた。ゴールデングローブ賞の授賞式直前に映画芸術科学アカデミーが発表した、第95回アカデミー賞の考慮資格獲得作品（作品賞などの主要部門の投票を受ける資格を得た作品ということだ）は301本。これは昨年の276作品より多いが、それまでの数年間が300本を優に超えていたことを踏まえればやや少ない。

　それにつけても昨年、Apple TV+の『コーダ あいのうた』が作品賞を受賞したことで一気に配信作品ムーブメントが高まりを見せるのかと思いきや、今年の有力作は軒並み劇場公開作品で占められているではないか。ゴールデングローブ賞でも例年作品部門に複数タイトルがノミネートされていたのに対し、今年はかろうじてNetflixの『ナイブズ・アウト：グラス・オニオン』が作品賞（ミュージカル・コメディ部門）にノミネートされたのみ。同作は前哨戦でもまずまずの善戦を見せているが、この数年のNetflix勢にあったようなパワフルさは感じられない。