吉原光夫、素顔は『どうする家康』『ガンニバル』とは別人? 努力を積み重ねた“命”の俳優

吉原光夫、努力を積み重ねた“命”の俳優

 名刺交換した相手の名前が“後藤”さんだと一瞬身構えてしまいそうだ。現在、ディズニー プラスで配信中のドラマ『ガンニバル』の話である。

 日本の土着的な世界観、映像美、美術セットや衣裳、小道具の緻密さなど、このドラマの見どころはたくさんあるが、なにより作品を高みに押し上げているのは劇中で描かれる登場人物の造形と、それを演じる俳優たちの説得力だろう。

 そもそもこういった物語で主人公が“住民が結託している排他的な村”や“恐ろしいことが行われている場所”に乗り込んでいった場合、本人も周囲の狂気に取り込まれるか、精神が崩壊していく展開が定石。が、『ガンニバル』では供花村に赴任する警官・阿川(柳楽優弥)自身が相当ヤバイ。ヤバい主人公がヤバい村で最高にヤバい事態に立ち向かうという、いろいろヤバいドラマなのだ。

『ガンニバル』©2023 Disney

 そんなヤバい村を取り仕切り、圧倒的な力で君臨する後藤一族の中で、何ともいえない存在感を放っているのが後藤岩男役の吉原光夫。シーズン1の終盤まで岩男にほぼセリフはないのだが、彼がそこにいるだけで“何かやったら殺される”空気が走り、画面には異様な緊張感が生まれる。キャップと無造作に伸ばした髪と髭とで表情が良くわからないのもまた怖い。

 場合によっては人を殺めることも厭わない岩男の行動の基になっているのは、後藤一族の結束と血を守り抜くという確固たる信念だ。一歩間違えるとただの殺人マシンにもなりかねないこのキャラクターを、吉原は何かの啓示を受け、その意思に従って自らの役割を黙々とこなす人物としてリアルに演じている。

 そう考えると、放送中のNHK大河ドラマ『どうする家康』で吉原が担う柴田勝家も岩男と同様、自身が守るべきもの、信念のために黙々と働く人物かもしれない。勝家が守るのは言うまでもなく織田信長(岡田准一)と織田家一門の結束。5回のオンエアが終わったところで勝家の出番は第4話のみではあるが、木下藤吉郎(ムロツヨシ)の尻をいきなり蹴飛ばし周囲に威圧感を与える姿に、松平元康(松本潤)や三河家臣団も慄きの表情を見せていた。

 本人は他者からカテゴライズされるのを良しとはしないだろうと思いつつ、ここからは吉原光夫という俳優を10年近くに渡って取材し、観客の前で彼とクロストークしてきた人間として主観を含め書かせてほしい。

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 俳優・吉原光夫を3つの単語で表すとしたら「無骨」「寡黙」「剛腕」だろう。とはいえこれは本人の素顔でなく、彼が(おもに映像で)演じてきたキャラクターのイメージである。吉原光夫の名前が特に多くの人に知れ渡ったのは2020年前期のNHK連続テレビ小説『エール』出演時。この朝ドラはテーマのひとつが音楽で、山崎育三郎、古川雄大、小南満佑子、井上希美、堀内敬子、柿澤勇人、海宝直人ら、吉原と同じくミュージカルの舞台で活躍する俳優たちが多く登場したことでも話題となった。

 他の7名が何かしら音楽にリンクする役どころだったのに対し、吉原が演じた馬具職人・岩城は音楽と無縁の人物で、劇中では鼻歌すら聞かせることなく人生の幕を閉じた。ところが、ドラマの特別企画として放送された“『エール』コンサート”にて、吉原は岩城の法被姿で登場し「イヨマンテの夜」をとてつもない迫力で歌い上げ「あの人、本当は何者?」と視聴者の度肝を抜いたのである。

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 この件に限らず、彼の俳優人生には一発逆転ホームランのような事象がまま起きる。バスケで挫折し入学した演劇の専門学校をやめようと決めたその日に、授業で観たミュージカル映画『ジーザス・クライスト=スーパースター』に打ち震え「あの作品に出る!」と日本での舞台上演権を持つ劇団四季に入団。追い求めた同作で晴れて「イスカリオテのユダ」を演じるものの四季を退団。自分の劇団を立ち上げ飲食店や配送のバイトを続ける中で受けたミュージカル『レ・ミゼラブル』のオーディションで、ジャン・バルジャン役に史上最年少(当時)で合格する。また、最近では小栗旬主演のシェイクスピア劇『ジョン王』のタイトルロールを急遽の登板でやり遂げるという離れ業もやってのけた。

 こう書くと演劇の神様に愛され光をあてられたプレイヤーのように思うかもしれないが、おそらく吉原は人の10倍、いや20倍の努力をしている。岩城や岩男、勝家のイメージとは違い、じつはタップダンスの名手でもあるし、非常に勉強熱心で論理的な面も持つ。

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