『今夜すきやきだよ』が解いていくさまざまな“呪い” 『逃げ恥』から7年の変化

『今夜すきやきだよ』が解いていく“呪い”

 現在、テレビ東京のドラマ24で放送中の『今夜すきやきだよ』は、谷口菜津子原作の同名漫画をドラマ化した作品。蓮佛美沙子演じる恋愛体質のあいこと、トリンドル玲奈演じるアロマンティックのともこが、ひょんなことから共同生活をすることになったところからスタートする。

 タイトルとテレ東深夜枠ということでもわかる通り、毎回、おいしそうな料理が出てくるのも楽しみの一つだが、それだけでなく、毎回、登場人物の抱える日常の問題が描かれ、そこにある「呪い」が少しずつ解けていき、観ているとこちらも登場人物と一緒に気分が軽くなるようなところも魅力である。

 第1話では、内装デザイナーで、仕事はできるが家事が苦手なあいこが、婚約中の彼氏から、「家事なんてみんな普通にやっている」と結婚後に家事を期待され、それに応えられないためにふられてしまう。

 同時に、絵本作家のともこは料理は得意で作ることに達成感を感じているが、「これだけ料理うまいんだから、いいお母さんになるよ」などと言われた苦い思い出がある上に、恋愛や結婚に関心がなく、窮屈な思いをしていた。そんな正反対のふたりが、ときには反発しながらも、お互いに理解しながら共同生活を続けていく。

【予告】ドラマ24 今夜すきやきだよ 第5話

 第5話では、あいこが新たに交際することになった杉浦ゆき(鈴木仁)や、ともこの友人の村山しんた(三河悠冴)が、「男らしさ」の呪縛から解放される様子も描かれていた。

 どちらかというと、社会に蔓延する「男らしさ」を受け入れ、それに合わせて生きていこうとしているのがゆきで、しんたはそんな呪縛に苦しめられたくないと考えている。ふたりが夜の公園で偶然出会い話しているうちに、ゆきが、しんたを見てなぜか苛立っている描写がリアルであった。

 人は、自分にとって負荷になっていることを、知らず知らずに受け入れているとき、そこから解き放たれようとしている人に出会うと、戸惑い、それまでの自分が否定されているように感じて憤るという反応が出ることもあるだろう。ただ、それは抑圧に気づくための、通過点で出てしまう反応だろうと思えた。

 最も心を動かされたのは第4話のエピソードだ。あいこは仕事で認められており、責任のある仕事を任され、雑誌の取材を受けることになったりと、順風満帆だった。

 しかし、あいこのような世代が雑誌の取材を依頼されるのは、若い世代が活躍をするためでもあるが、それは、取り上げる側が「新進気鋭の内装デザイナー」「若手のホープ」という見出しをつけようとしているところも大きい。実際には、そのプロジェクトを立ち上げたのは、あいこの先輩の五十嵐(河井青葉)だった。

【予告】ドラマ24 今夜すきやきだよ 第4話

 五十嵐は、常に後輩にチャンスが与えられるようにと動いている先輩であったが、同世代の同僚と、「寿退社するだろうと思われて、なかなか大きな仕事を任せてもらえなかった」時代を経て、「やっと仕事を任せてもらえるようになったと思ったら、今度は若手の育成」をすることになり、「たまにむなしくなる」という会話もしていた。これは、実際の就職氷河期世代の実感でもあるだろう。世代の近い筆者からすると、五十嵐が同世代の同僚に「佐々木の頑張りは、私がずっと見ているぞ」と冗談っぽく言うシーンは、何度観ても心に沁みる。

 こうしたやり取りについては知らないあいこだが、取材の資料に、「今回のプロジェクトの立ち上げについて」と書かれているのを見て、取材を受けるのは、五十嵐のほうが適任ではないかと考える。そして家に帰って、ともこに向かって、「このプロジェクト、やっぱり五十嵐さんのもんなわけ、それなのに若い人が前に出た方がいいって、なんかもやっとしない? それってさあ、五十嵐さんのこれまでも、もしかしたら未来の自分のことも、ないものにしちゃうことな気がする」と、気持ちを吐露するのだった。

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