『星降る夜に』人それぞれの幸せで心を温める登場人物たち 言葉の刃が吉高由里子に迫る

『星降る夜に』登場人物それぞれの幸せの形

 命は尊いもので、妊娠は喜ばしいもの。けれど、そう思えない事情も世の中には存在する。決して綺麗事では済まない物語が産婦人科という場所にあることは、なかなか語られない。何を幸せと感じるか、目の前の命とどう向き合うべきか。絶対的な正解がないからこそ、悩んで、考えて……そうして苦しみながら導いた答えを、必死で「正しかったんだ」と思いながら進む。それが“生きる”ということなのかもしれない。

 ドラマ『星降る夜に』(テレビ朝日系)第4話は、一星(北村匠海)の親友・春(千葉雄大)が抱える葛藤と、そんな彼をどう見守るか思い悩む周囲の姿に心が痛んだ。

 春の妻・うた(若月佑美)が妊娠をした。ところが、うたの表情は晴れない。その理由は春が子供を望んでいないからだった。春は遺品整理士になる前、うたと同じ会社で働いていたのだが過労とストレスにより、心身のバランスを崩して退職。しばらくは外に出ることもままならない日々が続いたという。

 私たちが知る春は、一星と遺品整理会社ポラリスのメンバーを手話でつなぐ明るくて穏やかな存在だった。しかし、今目の前にいる人のイメージが、その人の全てではないのだと気付かされる。

 やっと働けるようになった。ようやく妻とも話せるようになった。「今……まだそこなんです。とても人の親になんかなれないっていうか……自信が……」そう絞り出すように春が明かした自らの過去に、うたの担当医である深夜(ディーン・フジオカ)も返す言葉が見つからない。一星も深夜も、春に何か言葉をかけてあげたいと思い悩む。だが、そんな2人に鈴(吉高由里子)は「何も言わないでそばにいてあげる優しさもある」「話を聞いてあげることしかできない」と諭すのだった。私たちは、言葉によって救われるけれど、一方で言葉一つで突き落とされる生き物でもあるから。

 その言葉の刃が、鈴の背後に迫っている描写も見受けられた。マロニエ産婦人科医院のSNSに書き込まれた「雪宮鈴は人殺し」というコメント。きっと何度となく鈴がフラッシュバックを繰り返してきた、過去の事件の関係者なのだろう。鈴も春と同じように明るく振る舞ってはいるものの、かつての傷が完全に癒えたわけではない。

 自信を持つことも、前に進むことも、他の誰かに言われたからってできることではなくて、他ならぬその人自身の中でしか解決できないこと。だから、周りの人間が何かを言って役に立つことなんてほとんどないのかもしれない。きっと、数多くの複雑な事情を抱えた妊娠や出産を見つめてきた鈴だからこそ、自分の無力さを痛感しながら「何も言わないでそばにいる」「話を聞くだけ」という答えに行き着いたのだろう。

 元気に見えても、楽しそうに過ごしていても、痛みや不安を抱えながら必死に生きている人がいる。音のない世界に生きる一星も、愛妻とそのお腹の子を亡くした深夜も。ポラリスの社長・千明(水野美紀)も娘の桜(吉柳咲良)が元夫の連れ子で血の繋がりのないことが明かされた。きっと、そこには様々な苦悩があったはずだ。語られないから見えてこないけれど、日常とはそれぞれに事情を抱えつつも感情に通り合いをつけながら、みんなで必死に紡いでいるものなのかもしれない。だからこそ、見逃してしまいそうなほど、ちょっとした喜びや幸せを大切にしていきたいとも思った。

 例えば、鈴が手話教室で先生とお酒の話をしているシーン。「お酒の種類はなんでも好きです」なんてうれしそうに答えていたと思いきや、「赤くなったり吐いたりしませんか?」という質問にはドギマギしてみせる。きっと一星との初対面を思い出したのだろう。そんな可愛げがまるで満天の星空のように、このドラマにはキラキラと輝いている。

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