“ありえなさ”が魅力? 『エミリー、パリへ行く』を歴代ガールズドラマと徹底比較

『エミリー、パリへ行く』ありえなさが魅力?

作中での就業規則にパリジェンヌもびっくり

 Netflixが運営するYouTubeチャンネル『Still Watching Netflix』には、『エミリー、パリへ行く』シーズン2までのダイジェストを見たパリジェンヌたちが、感想を語り合う動画が公開されている。パリ在住でポッドキャスト番組『Peak TV』のホストとして活動しているアナイスとマリーの2人が指摘するのは、本作にはステレオタイプなフランスの描写が多いということだ。たとえばエミリーが務めるPR会社サヴォワールの始業時間は10時30分だが、2人によれば「今どきそんな遅い会社はない」「遅くても8時50分には働きはじめる」とのこと。またオフィスでの喫煙や、ランチタイムをたっぷり2時間とってアルコールを楽しむことについても、「典型的なステレオタイプだ」と語る。

 エミリーの友人ミンディ(アシュリー・パーク)は、ドラァグクラブで“ダム・ピピ(トイレの番人)”として働いていたところからチャンスをつかみ、シンガーとして成功していくが、彼女たちによれば“ダム・ピピ”は今やパリでも見かけることはほとんどないそうだ。「駅のトイレにはいるかもしれないけど、あんなおしゃれなカフェにはいない」「(“ダム・ピピ”がいたのは)80年代くらいまでじゃない?」とマリーは指摘している。

「男に友情を壊させない」は可能か?

 ガールズドラマの多くは、女同士の友情や連帯を描くものが多い。全く違った職種・境遇でも良き友人として支えあう姿に、視聴者は自分の友人たちを思い出したり、羨ましく思ったりするだろう。女友達は大切な財産だ。しかし男が絡むと話は違ってくる。『エミリー、パリへ行く』では、エミリーと友人のカミーユ(カミーユ・ラザ)がシェフのガブリエル(リュカ・ブラヴォー)をめぐって微妙な関係に。彼女たちは親友というほどの仲ではなかったが、パリにやってきたばかりのエミリーにとって、カミーユはもっとも親しい友人の1人だったことには違いない。ところが2人の友情は、男の存在によって引き裂かれてしまった。シーズン3終了時点でまだこの関係にはっきりとした決着はついていないが、カミーユには新たなロマンスの予感があり、エミリーとガブリエルにもさらなる展開が待ち受けているだろう。

 “ミレニアル世代の『SATC』”と呼ばれ、エミー賞を受賞するなど高い評価を受けたドラマ『GIRLS/ガールズ』(2012年~2017年、以下『GIRLS』)でも、やはり男をめぐって引き裂かれる女の友情が描かれた。主人公のハンナ(レナ・ダナム)は元彼のアダム(アダム・ドライバー)への想いを断ち切れずにいたが、彼はハンナの友人ジェッサ(ジェマイマ・カーク)と恋仲に。アダムは妊娠したハンナのもとに一度は戻ってくるが、結局ジェッサを選ぶという結末を迎えた。ハンナは郊外に移住し、シングルマザーとして、親友のマーニー(アリソン・ウィリアムズ)とともに息子を育てることを決意する。泥臭いまでにリアルなニューヨークの若者たちを描いた『GIRLS/ガールズ』では、女の友情の尊さが描かれたが、そこには“男が絡まない限り”という注釈がつけられたのだ。エミリーとカミーユは「男に友情を壊させない」と約束したが、それは果たされなかった。思えば『SATC』の4人がいつまでも仲良くできていたのは、同じ男を好きになるという展開がなかったからかもしれない。

 こうして見ていくと、『エミリー、パリへ行く』はこれまでヒットしたガールズドラマよりも、『ゴシップガール』(2007年~2012年)などのティーンドラマに近い非現実性を持っているように思える。超セレブな高校生たちの共感度ゼロのセンセーショナルな青春を描いた『ゴシップガール』は、多くの視聴者にとって上流階級という未知の世界を描いたファンタジーだった。ファッションも生活様式も、自分とは縁のないもの。しかしあこがれの世界を覗き見る楽しみを提供してくれた。

 『エミリー、パリへ行く』は、配信された時期が世界中が鬱屈としていたコロナ禍だったこともあり、夢の世界へ連れて行ってくれる一種のファンタジーとして、その“ありえなさ”がウケたと考えていいだろう。すでに製作が決定しているシーズン4で、エミリーはどんな夢を見せてくれるのだろうか。

参考

※ https://www.dailymail.co.uk/femail/article-11503921/The-true-cost-Emily-Paris-lavish-lifestyle-revealed.html

■配信情報
『エミリー、パリへ行く』
Netflixにて独占配信中

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