『舞いあがれ!』の別れに見えた相手への尊重 感情爆発の恋愛はドラマで描かれなくなる?

『舞いあがれ!』舞と柏木の別れを考える

 薄々感じていたものの、舞(福原遥)と柏木(目黒蓮)の別れは恋の終わりにしてはあまりに冷静であった。“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』、第15週「決断の時」は、舞が実家の会社の再建を本格的に手伝うため、ハカタエアライン就職を辞退することを決意する。舞を心配して仕事の合間、東大阪に訪ねて来た柏木だったが、それが2人の進路をはっきりさせることになった。

「でも、そういう舞だから好きだった。短い間でも一緒に空を目指せて幸せだった」

 と言って柏木は舞の元を去って行った。「そういう舞」とは、一途な舞のことだろう。

 どのみち遠距離なのだから、はっきりさせずそのままにして、自然消滅することもあれば、決定的な問題が生じたとき(例えばほかに好きな人ができるなど)に別れる以外は、なんとなく続いたままにするという形を選択する恋人たちもいるだろう。だが、舞と柏木はそうしない。ある意味、真面目なのである。淡々と冷静に、お互いの立場を確認し、最善の道を選ぶ、それも平和的に。厳しいパイロットの訓練がふたりをそうさせたような気がする。と書くと、これで原稿が終わってしまうので、もう少し考えてみたい。

 まず舞。彼女はたぶん、自分からはいかないけれど、相手から来られると断れない性分だと思う。もちろん柏木のことは好ましくはあったと思うが。柏木の積極性に引っ張られてつきあいはじめ、それなりに楽しくて、結婚でもしたらたぶん、パイロットもしながら、それなりに柏木に尽くしたに違いない。でも柏木はきっと父親のように妻はCAのほうがいい気がする。パイロット同士だと難しいのではないか。余計なお世話だが。

 舞は恋に溺れるタイプではない。意外ときっぱりした性分で、航空学校に入るときも受験勉強と大学を平行させず、大学を中退している。「これ!」と決めると保険をかけない性格のようだ。大学を出てから航空学校に入る(そうするとけっこうギリギリではあるのだが)、入社まで一応そのままにしておくことをせず、退路を絶つ。柏木との恋も同じパターンで、進む道が違うともうつきあえないのだ。

 次に柏木。柏木学生は航空学校時代、知識はあるがどこか短慮なところがあるように描かれていた。面接では馬の話を滔々とし(就職してからもケータイの待ち受けが馬!)、舞には失礼な物言いをしていた。訓練中は、実践に弱く迷子になって落ち込んでしまう。そのとき親身になって助けてくれた舞に夢中になり、難しい試験中にもかかわらずぐいぐい迫っていった。短慮かつ自分第一。柏木のゆく道に舞が必要だと思い込んだら一直線。だから、自分の必要なときに必要な会話(パイロットのことなど)ができないなら意味はない。仕事が忙しいと、舞の父・浩太(高橋克典)が亡くなっても東大阪には来ない。交際のけじめとして親に挨拶しに来たのも舞のためではなく、そういうことをしているという自己満足なのだろう。

 要するに、ふたりがうまくいきそうにないことは、恋のはじめから描かれていたのである。でもそれだとちょっと身も蓋もなく、悲し過ぎる。柏木は舞が物事に一途であることを理解しているので、身を引いたのだろう。あるいは、柏木とは舞のパイロットになる夢のメタファーだったと考えることも可能である。柏木を諦めることで、舞がパイロットの夢を捨て工場を立て直すことを選択したということを明確にするために柏木とはここで終わりにしなければなからなかった。ここで、柏木との遠距離を続けてしまうと、彼女がパイロットの道をどこか残して工場の仕事を続けているような見え方にもなってしまう。それだけ強い決意で舞は家の工場のために働くということなのである。

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