『舞いあがれ!』の別れに見えた相手への尊重 感情爆発の恋愛はドラマで描かれなくなる?
興味深いのは、舞も柏木もこの決断に当たり、じつに穏やかであることだ。舞は柏木と別れ家に帰ってから思い出の写真を胸に泣いてはいたけれど。柏木とは最後まで身体的に距離をとっていて、舞が抱きついて泣くのは母親・めぐみ(永作博美)なのである。
『silent』最後まで煌めいていた湊斗の優しさ それでも“幸せになれ”と願いを込めて
なにかを失った時、その喪失感に対して使用される「〇〇ロス」という言葉。誰かの引退や休業だけでなく、ドラマなどのコンテンツが最終回…
別れの形があっさりしているといえば、目黒蓮が出演したドラマ『silent』(フジテレビ系)を思い出す。主人公・紬(川口春奈)とつきあっていた湊斗(鈴鹿央士)は、紬がかつての恋人である想(目黒蓮)と再会すると身を引く。この引き方がじつに穏やかで冷静だったうえ、その後、湊斗は「紬を幸せにし隊」というLINEグループに参加するのである。それには湊斗が想と親友であったことも関係しているだろうけれど、それにしても賢者過ぎる。ちょっと前の恋愛ドラマは修羅場こそドラマみたいなところがあったこととは大違いだ。
幸福な恋愛に立ちふさがる障害に感情むきだしで全力で立ち向かっていく、あるいは全力で妨害していく、そこにワクワクして観た時代は遠く、いまや、心拍数をあげるのはホラーや明らかに嘘の世界で十分、日常と地続きなことで感情を動かすことはしたくないとばかりに、恋愛や仕事関係のいざこざがドラマで描かれることは「しんどい」と敬遠される。そして対人感情の描写はどんどん抑制されていく。『舞いあがれ!』の舞と柏木はまさにそれで、どちらを追うこともすがることも責めることもなく、さわやかにお互いの道を応援するのだ。それは相手を尊重するということでもある。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK