『チェンソーマン』に感じたアニメ作品の未来 “生活”を丁寧に描くことで示した可能性

 「田舎のネズミと都会のネズミ、どっちがいい?」。『少年と犬』の主人公のようにデンジも田舎から東京へとやってくる。なぜか呼称する名前も消滅している「人でも悪魔でも魔人でもない」存在になったデンジは、16歳という年齢にもかかわらず、学校に通う機会も与えられないまま、公安のデビルハンターとして働くことになる。客観的に見れば職場環境は最悪で、先輩に無理やりアルコールを飲まされた上に性暴力の被害にもあってしまう。「チェンソーの心臓」を狙って襲いかかってくる悪魔と、それを利用しようとする公安、肝心のデンジ本人のことを気にかけている人は誰もいない。米津玄師が主題歌の中でモーニング娘。の歌詞を引用していることにも顕著だが、『チェンソーマン』の舞台は(アニメの中では明言されていないが)90年代の日本である。デンジという個人が掻き消され、その「少年性」だけが大人たちに消費されてしまう様子は、もしかしたらこの時代の病理の表れかもしれない。

『チェンソーマン』第12話ノンクレジットエンディング / CHAINSAW MAN #12 Ending│Eve「ファイトソング」

 大人を信じられなくなった子供たちは、東京の片隅で自分たちだけで身を寄せ合って暮らすことになる。第12話のエンディング、デンジとアキ、パワーの3人はスーパーで買い物をしている。カゴに入れた肉や野菜がどうやって自分たちのもとに届いているか、そのシステムに無自覚なまま、もしくは忘れたフリをしたまま、彼らの「食事」はたしかにそこにある。「食事」が中心にある本作において、敵はサムライソードのように「食事」に介入してくる存在になるが、今後、どんな敵がデンジたちを待ち受けているのだろうか? いずれにせよ、この夕飯の風景を壊そうとする存在がいるなら、それは「悪魔」としか言いようがないだろう。

 2022年、YouTubeにアップされているリアクション動画を観ると『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』や『ベター・コール・ソウル』などの傑作ドラマシリーズと同じように『チェンソーマン』が楽しまれていたことがわかる。それは3DCGによるアニメ表現や、カメラを意識させる撮影や演出などで「生活」を丁寧に描いていたからだろう。『チェンソーマン』はピークTV時代のドラマシリーズのナラティブを導入することで、アニメもドラマシリーズと同じ土俵で語られることが可能であると示した。新たなドラマシリーズとして、課題があるのも事実だが、この挑戦の先にアニメ作品の未来はあるかもしれない。その点も踏まえて『チェンソーマン』がシーズン2以降、どうなっていくのか、しっかり見届けたいと思う。がんばれチェンソーマン!

■配信情報
『チェンソーマン』
Prime Videoほか各プラットフォームにて配信中
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(早川アキ)、伊瀬茉莉也(姫野)、高橋花林(東山コベニ)、八代拓(荒井ヒロカズ)、津田健次郎(岸辺)、内田真礼(天使の悪魔)、花江夏樹(サメの魔人)、内田夕夜(暴力の魔人)、後藤沙緒里(蜘蛛の悪魔)、大地葉(沢渡アカネ)、濱野大輝(サムライソード)
原作:藤本タツキ(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:中山竜
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
アクションディレクター:吉原達矢
チーフ演出:中園真登
悪魔デザイン:押山清高
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
画面設計:宮原洋平
音楽:牛尾憲輔
オープニング・テーマ:米津玄師「KICK BACK」
挿入歌:マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
エンディング・テーマ:
ano「ちゅ、多様性。」
Eve「ファイトソング」
Aimer「Deep down」
Kanaria「大脳的なランデブー」
syudou「インザバックルーム」
女王蜂「バイオレンス」
ずっと真夜中でいいのに。「残機」
TK from 凛として時雨「first death」
TOOBOE「錠剤」
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
PEOPLE 1「DOGLAND」
マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
アニメーションプロデューサー:瀬下恵介
制作:MAPPA
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式Twitter:@CHAINSAWMAN_PR

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