視聴者自身も『エルピス』の“細胞”の1つだった “信じる”ことで変わる世界を見せた最終話
「善玉も悪玉も一緒くたに、ただ絶え間なく循環させながら、摂取と排泄を繰り返す。まるで私たちの身体みたいに」
それは、第9話において、自身が働く会社のことを恵那が表現した言葉であると共に、「食べることや眠ること」といった身体を通した感覚を用いて彼女たちの心理を描いてきた本作の主題そのものでもあった。恵那と拓朗の身体の中の細胞レベルの話から始まった物語は、やがて会社という組織の中の個人という細胞の話へと繋がり、さらにはもっと大きな、この国全体の話に辿りつく。それが本作の一貫した流れだったように思う。「ニュース8」メインキャスターに返り咲いた恵那の、報道人としての矜持を貫こうとする一方で、組織の一員としての苦悩が描かれたのが後半である。彼女も拓朗も、常に正しい方にいるのではなく、どうにもならずに揺らぐこともある。それでもなんとかして「夢をみよう」とする姿に、私たちは心が熱くなったのだった。
また、最終話において、事件関係者がそれぞれの場所で、恵那の報じるニュースを見ている場面で、拓朗を陥れた刑事・平川(安井順平)の姿もあった。彼もまた、拓朗に真実を託したかった思い自体は偽りではなかったのだろう。それぞれが、それぞれの事情を抱え、時折「空気に流される」姿も描きながら、それでも何かに突き動かされるように、少しずつ変わっていく。それを以て、誰が悪玉で善玉であると断定するのではなく、誰もが悪玉になる危険性もあるし、善玉にもなりうるのだということを本作は告げる。一方で、恵那の心理を見越したかのように斎藤が「この国という全体に対する個人」の話を「細胞」の話に置き換えて語り、大門のスキャンダルを報じさせまいとする説得に利用しようとすることで、危うさをも匂わせるところもまた、秀逸だった。
最終話では描かれなかった、エンディングの、スタジオで料理を作る恵那と、それをテレビ越しに見ながらケーキを食べるさくらの物語は、後日談として描かれた、松本のためにカレーを作るさくらと、松本とさくらが一緒にカレーとケーキを食べる物語へと変換される。一見不気味に見えた撮影風景は、最終話冒頭の恵那の「好きだった風景」の一部と似ていて、つまりそれは、「信じるか信じないか」によって、世界は全く違って見えることを示す。そして、恵那をマスメディア、さくらを視聴者/大衆という構図で捉えると、最終話での構図の転換は、これはただ視聴者が「一方的に見るだけ」の物語ではなく、私たち自身もこの物語の中の細胞の1つであり、これは紛れもなく私たちの物語なのだということを告げているのである。
■配信情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
FOD、U-NEXTにて配信中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv