2022年の年間ベスト企画
平井伊都子の「2022年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 前代未聞のドラマ狂騒時代
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2022年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2022年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第7回の選者は、ロサンゼルス在住のライター・平井伊都子。(編集部)
1.『ベター・コール・ソウル』S6(Netflix)
2.『私の解放日誌』(Netflix)
3.『アトランタ』S3&4 (ディズニープラス)
4.『一流シェフのファミリーレストラン』S1(ディズニープラス)
5.『ナルコの神』(Netflix)
6.『MO/モー』S1(Netflix)
7.『ザ・プレイリスト』(Netflix)
8.『ユミの細胞たち』S1&2(Prime Video)
9.『マネー ~彼女が手に入れたもの~』S1(Apple TV+)
10.『Pachinko パチンコ』S1(Apple TV+)
海外ドラマファンの誰もが実感していることだと思うが、ドラマシリーズは完全に飽和状態。10本を決めるのが年々難しくなる。その中でも有終の美を飾ったばかりの『ベター・コール・ソウル』と『アトランタ』は、2022年を代表する作品として記憶に留めておきたい。『ベター・コール・ソウル』の一瞬の隙もない脚本と演出、『ブレイキング・バッド』から足掛け14年の歴史が感じられるプロダクションワーク、前作よりも若い設定の役を演じ時間の逆行に挑戦するボブ・オデンカーク。そしてモラルセンターとしてソウルを支え先導し、残酷な運命に最後まで抗ったヒロイン、キムを演じたレイ・シーホーンの演技は忘れ難いものだった。彼女の演技にまだ充分な賞賛を贈っていない北米のテレビ各賞は本当にどうかしている。7月に放送されたS6後半は便宜上2023年のエミー賞対象となるため、最後の期待をかけている。
スウェーデンのSpotify設立物語『ザ・プレイリスト』は、複数の関係者の視点を用いた「羅生門効果」構成がテック・スタートアップの狂乱を描くのに適していた。原作既読のため人物描写が物足りなかった『Pachinko パチンコ』だが、時代を行き来するノンリニア構成なので今後いくらでも深追いすることができる。グラス・ルーツの「今日を生きよう」が流れるタイトル映像の素晴らしさとS2以降への期待を込めて10位に。
コロナ禍の渦中にヨーロッパで撮影されたS3、アトランタに戻り作られたS4をもって完結した『アトランタ』の白眉は、S4第7話ではないだろうか。ドラマ開始時に仕事も人生も中途半端だったアーン(ドナルド・グローバー)が自分の意志で未来を選択し、強い願望を言語化する。褐色の肌に流れる涙はほとんど見えない。その後に続くエピソードが、11月のディズニー社CEO電撃交代劇を予測したような「幻の黒人CEO」のモキュメンタリー(『アトランタ』の放送局FXは2019年にディズニーに買収されている)であり、シリーズファイナルで日本出身のヒロ・ムライが南部アトランタの黒人たちの物語を描いたシリーズ全体を皮肉りドラマ完結のセンチメントを吹き飛ばしたのも、完全に彼らの手中で転がされていた気がする。
そのヒロ・ムライの制作会社Super Frogが手がけるドラマシリーズは常に注目を集めている。監督を務めた『ステーション・イレブン』(HBO Max/U-NEXT)、そして製作総指揮として確かな才覚を表した『一流シェフのファミリーレストラン』。30分に詰め込まれたシカゴ訛りの早口罵詈雑言とキッチンの忙しなさが、ドラマ飽和時代を走り抜けるスピードなのかもしれない。ショーランナーはA24製作のドラマ『ラミー:自分探しの旅』(LIONSGATE+)を演出したクリストファー・ストーラー。『ラミー』の出演者が揃ってNetflixにお引っ越ししたような『MO/モー』は、テキサスに暮らす亡命申請中のパレスチナ人、ムハンマド(モー)を中心に移民ビザ問題、恋人との異教問題などを綴る。マーヤ・ルドルフ、MJ・ロドリゲス、ジョエル・キム・ブースターがフィランソロピー(慈善活動)の世界を演じる『マネー ~彼女が手に入れたもの~』、そして10本には入れられなかったが、『アボット・エレメンタリー』(ディズニープラス)など、30分フォーマットのコメディドラマに秀作が多い。