2022年の年間ベスト企画
平井伊都子の「2022年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 前代未聞のドラマ狂騒時代
『愛の不時着』、『イカゲーム』、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』と、毎年異なるジャンルの世界的ヒットを生む韓国は、世界一のドラマ製作国と呼んでいいと思う。そのなかでも『私の解放日誌』は、閉塞的な日常から三兄弟と周辺が“解放”されていく様子を描いていた。解放は道筋を示すことで、解決ではない。わたしたちをぐるっと覆う時代の空気を、“解放”“あがめる”というキーワードを用いて物語に落とし込んだ脚本家のパク・ヘヨンと、彼女のストーリーテリングを信じ演じた、他作品では主役級の俳優4名が見事なアンサンブルを見せる。こういった作品が世界に向けて作られ、愛され、評価を得る韓国ドラマ界は、まだまだ高みに登っていくことだろう。
CGアニメとドラマを融合させた『ユミの細胞たち』、南米スリナム共和国で実際に起きた事件をもとにした『ナルコの神』も、「奇妙さ、シュールさ、既存ジャンルへの反抗」を追求したドラマだった。この言葉は、先述したヒロ・ムライ率いるSuper Frogが、彼らが作るドラマの前提として挙げていたものだ(※)。
その前提がこのコンテンツ狂騒時代を生き抜く鍵という意味で、日本未放送・未配信の『The Rehearsal』(HBO Max)と『財閥家の末息子』をスペシャルメンションに挙げておきたい。『The Rehearsal』は、「一世一代の重要イベントをリハーサルする」リアリティショーを作る渦中で、演技と感情の因果を解き明かそうとする不条理モキュメンタリー風コメディ。他に類を見ないジャンルと鑑賞後感で、これだけストリーミングが増えようとも、まだ観ぬ新しいドラマを次々と世に出すHBOの目利きが冴える。
ソン・ジュンギとイ・ソンミンの『財閥家の末息子』は、30年前の財閥一家の孫息子に転生した男の復讐劇。『メディア王~華麗なる一族~』に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を力技で掛け合わせたようなドラマだ。韓国の近代政治経済史をドラマにはめ込み、視聴者の耳目を集めて離さず驚異的な視聴率を記録している。この2作品、日本配信開始の折にはぜひご覧いただきたい。
参照
※ https://www.hollywoodreporter.com/tv/tv-features/hiro-murai-nate-matteson-station-eleven-atlanta-1235106612/
■配信情報
『ベター・コール・ソウル』シーズン6
Netflixにて配信中
©︎Joe Pugliese/AMC/Sony Pictures Television