『エルピス』村井は何に対して怒ったのか? バブル世代を演じる岡部たかしの叫び

『エルピス』村井は何に対して怒ったのか?

 第9話では善玉・悪玉論が話題になった。体内には善玉菌と悪玉菌がいて、善玉も増えすぎると悪玉になるし、悪玉が善玉になることもある。そうやって全体のバランスが保たれているが、このことは現実社会にもあてはまる。善悪の境界は固定的なものではなく、その時々で均衡を保っていて、閉塞感を感じるのはたいていそのバランスが崩れている時だ。身体の働きを正常に保つように、社会でもバランスを取り戻す働きが存在する。それがマスメディアの役割だが、一人ひとりに目を向けるとそれぞれの立場で必死に抗ったり真実を追求する泥臭い取り組みとなる。放っておいても誰かが何かをタイミング良く差し出してくれるわけではない。

 佐伯が拓朗に語った「本人の中にあるべきもの」を村井は持っていて、その意味で生粋のジャーナリストといえるが、亨の命を奪われた村井が古巣の『ニュース8』に乱入するくだりは稚拙で破壊的な反面、妙に納得できるものでもあった。「どいつもこいつも正義面しやがって。腐れインチキどもが!」と罵り、パイプ椅子をぶん投げる村井に溜飲の下がる思いがした人も多かっただろう。村井は何に怒っていたのだろうか。虎の子のスクープを無にされたことや亨に対する個人的な無念もあるが、村井を突き動かしていたのはある種の義憤だったと思う。村井は、亨の人格を踏みにじるような仕打ちに我慢がならなかった。端的に言えば「人間を馬鹿にするな」ということで、私たちが失ってはならないものを指し示していた。

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

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