『エルピス』と現実の震えるような符号 岡部たかし演じる村井の言葉が再び甦る

『エルピス』と現実の震えるような符号

 いよいよ真実に指がふれようとしている。

 さびれた商店街で出会った男(永山瑛太)が、地元の有力者である本城建託の長男・彰だと突き止めた浅川(長澤まさみ)と岸本(眞栄田郷敦)。

 その裏にうごめくのは、さらなる巨大権力。だがそれは、私たちの生きる現実と震えるような符合を示していた。『エルピス—希望、あるいは災い—』(カンテレ・フジテレビ系)が暴く闇は想像以上に深いものなのかもしれない。

2022年10月24日に何が起きる?

 連続殺人事件の舞台となった八頭尾山。少女たちの命が散ったその山を擁する神奈川県八飛市は、時の副総理・大門雄二(山路和弘)の出身地だった。街中に掲げられた大門のポスター。地元の人々がささやく大門副総理と本城建託のつながり。そして、斎藤(鈴木亮平)を通じてかけられた大門からの圧力。浅川と岸本は、この冤罪事件に大門が何かしら関与しているのではないかと疑念を抱く。

 本作は、決して犯人探しを目的としたドラマではない。そのため、連続殺人事件の真犯人はこのままストレートに彰と考えて良さそうだ。その不都合な真実を隠すために、身寄りのない松本(片岡正二郎)をスケープゴートにしたとしたら――。浮かび上がってくるのは、冤罪事件の向こう側にある権力の濫用と組織の腐敗だ。

 有力な政治家の出身地で起きた、冤罪疑惑のある事件と言えば、思い起こされるのが飯塚事件だ。本作では参考資料として足利事件に関する著作がいくつも挙げられているが、1992年に発生した飯塚事件は、その足利事件と並び「西の飯塚、東の足利」と称されている。

 女児2人の殺害容疑をかけられた久間三千年元死刑囚は、精度の低いDNA鑑定が決め手となり、逮捕。一貫して無罪を主張し続けてきたが、2006年10月8日、死刑が確定した。

 この飯塚事件が発生したのは、福岡県飯塚市。現副総裁・麻生太郎の地元である。その特徴的なハットや歪んだ口元、選挙ポスターなどから、大門が麻生太郎をモデルとしていることは想像に難くない。そして仮に大門のモデルが麻生太郎だとしたら、『エルピス』で描かれている八頭尾山連続殺人事件は、飯塚事件がモチーフの一つになっていると考えられる。

 その符合に気づいた瞬間、第1話から繰り返して観てきたある映像に、今までとはまったく違う意味が浮かんでくる。その映像とは、エンディングで流れるケーキの箱だ。そこに貼られているシールの賞味期限は2022年10月24日。これまでこの日付は本作の初回放送日を表していると見られてきた。

エルピスー希望、あるいは災いー

 だが、飯塚事件が下敷きになっているとしたら話は別だ。久間元死刑囚の死刑執行命令書にサインがなされたのは、2008年の10月24日。そして、その当時の内閣総理大臣は麻生太郎なのである。麻生内閣が成立したのが同年9月24日。それからわずか1カ月後のことだった。

 ここではっきりしておきたいが、この指摘は飯塚事件の真相について究明しようというものではない。ただ、少なくとも制作者たちが意図的に飯塚事件に寄せていることは間違いないだろう。だとすると、今後の焦点になるのは、松本の死刑執行を浅川たちは止めることができるかどうか。そして、そのタイムリミットが2022年10月24日なのではないかということだ。

 実在の事件や人物をフィクションに混ぜ込むのは、慎重な配慮が必要となる。場合によっては、視聴者に混乱を与え、不要な憶測や誤解を招くことにもなりかねない。そうしたリスクも念頭に置いた上で、ここから『エルピス』がこの符合にどんな決着をもたらすかに注目したい。

「闇にあるもんっていうのは、それ相応の理由があってそこにあるんだよ。お前らごときが、おもちゃみたいな正義感で手出していいことじゃねえんだよ」
「僕らが生きてるこの世間にもいろんな怖い生き物が目に見えない縄張りを張ってたりするんだよ。どこに何がいるのかもわかっていないようなガキがブンブン棒振ってたりしたら大変な目に遭うってこと? わかる?」

 第1話の村井(岡部たかし)の言葉が耳元に甦る。あの警告は、制作者たちの自戒の言葉だったのだろうか。

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