『チェンソーマン』ついに描かれた“first death” 物語のエンジンが始動する

 ついに“『チェンソーマン』が始まった”。そう思わせる第8話「銃声」は、漫画未読のファンにとっては驚く演出が続いたはず。そう、『チェンソーマン』とはいつ、誰がどう死ぬかわからない……常に何が起きてもおかしくない、衝撃的な展開が続く作品なのだ。

『チェンソーマン』第8話「銃声」予告&先行カット公開 サムライソード&沢渡アカネ登場

テレビ東京系ほかにて放送中のTVアニメ『チェンソーマン』第8話の予告映像と先行カットが公開された。   『少年ジャンプ+』…

※本稿には『チェンソーマン』第8話のネタバレを含みます。

 飲み会でデンジをお持ち帰りしたところから、今度は姫野視点で描かれる冒頭。しっかり間を持ちながら、丁寧に彼女の帰宅時の様子など、その人の“日常”を映すことで“それら”がこの世から失われる時のインパクトを強めている。姫野の家は間取り(テラスを除く)を含め、ほぼアニメオリジナルとして構成されている。全体的に物は少なくて、広さが目立つが棚の上には少し高そうなスピーカーがあったり、キッチンカウンターには椅子が二つ並んであったり。二つの椅子。冷蔵庫の中にはビールが二つあり、彼女はそれを一つ手に取って開ける。二つのビール。他には肉じゃがをはじめとする、タッパーに詰められた作り置きのおかずが印象的だった。それらが示すものは、時々家にやってくるアキとの時間であり、このようなディテールがキャラクターの人間性の補強をするのだ。その意味で、すごく細かく、丁寧に姫野という人物を捉えていた第8話。文字通り、前回がデンジのPOVだったのに対して今回は姫野の視点で出来事を描くことで、彼女から見える世界を映すことに成功した。

『チェンソーマン』第8話ノンクレジットエンディング / CHAINSAW MAN #8 Ending│TK from 凛として時雨「first death」

 その姫野が、死んだ。アキを救うために。あんなに酔っ払って、笑って、デンジとこれから手を組んでアキを落とそうとしていた姫野が、死んだ。しかも、彼女が自らの肉体を犠牲にして召喚した「幽霊の悪魔」は、サムライソード(英語ではカタナマン)の仲間である沢渡アカネが契約する蛇の悪魔に丸呑みにされてしまう。つまり彼女の死は事実上、犬死なのだ。全くもって不条理な展開であるが、現実でも人が死ぬ時なんてほとんどが不条理な状況であって、死の直前に何かを成し遂げようともがいたものが、本当に成し遂げられることの方が珍しい。『チェンソーマン』はメチャクチャな描写が多いと感じさせる作品だが、注視するとそれらはかなり現実的なものなのだ。

「アキくんは、死なないでね」

 「永遠の悪魔」編から何度も何度も繰り返されてきた、姫野のセリフ。英語では「Don’t die on me, Aki」となっている。ただの「Don’t die(死ぬな)」ではなく、「on me」があることは、「あなたが死ぬと私が悲しむから」「私が一人になってしまうから」など文法的にその死が話者に何らかの影響を及ぼすことを強調しているのだ。つまり、アキの死に対する姫野の気持ちにフォーカスが置かれている。自分の死を嘆いてくれ、泣いてくれと言いながら、最後までその瞳に映したのがアキだった姫野。最初から最後まで、一貫して彼の生に執着、依存した彼女らしい最期を遂げた。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる