『チェンソーマン』“実写的”映像表現の奥深さ　美しさが滲む、暴力＆妖艶な描写の数々

　それは洋画の分類だ。藤本タツキの原作からは、いわゆるB級映画と呼ばれる洋画の作品群に存在するような、荒々しさと同時に、強烈なパワーや個性が感じられる。一方でアニメ版からは、抑制された静謐な雰囲気が画面から伝わってくることが多く、B級映画とは異なる手触りを感じる。この違いは、見方を変えれば原作の荒々しさをアニメが整備してしまったことにより、圧倒的な個性が失われたように感じる部分でもある。これらは原作の絵のタッチと、アニメ版の絵のタッチの違いとも言い表せ、どちらも絵を用いた表現として比較すると面白い発見が見つかるだろう。

　またアニメ版も原作と同じようなバイオレンス描写が数多く存在しているが、それと同時にエロチックな表現も見どころとなっている。例えば第7話の姫野が酒に酔った後の行為に関しては、日本のラブコメアニメで見るような、いかにも『週刊少年ジャンプ』で連載されている作品に見受けられる萌え表現とは異なり、まるで青年誌で連載されていたり、あるいは深夜の実写ドラマで度々見かける、生々しい人間的な艶やかさ、エロスが感じられた。

　『チェンソーマン』は人の命が軽い過激なバイオレンス描写と、エロティック描写が混在し、欲に忠実ともいえる作品だ。しかし、それらを露悪的に描くのではなく、映像作品としての凛とした美しさを捉えているのがアニメ版の特徴であり、それを支えるのが実写的な表現ということになる。

　最後になるが、作者の藤本タツキの特異な作家性にも着目したい。『チェンソーマン』以外の作品、例えば過去に連載された『ファイアパンチ』でも、序盤に主人公が死、あるいはそれに近い状態になることで能力を覚醒させる描写がある。あるいは話題となった短編の『ルックバック』でも、中盤の死が絡む展開によって、主人公の物語が分かれるという演出がなされている。

　これらは異世界に行かないだけで、自身や他者が死を迎えることで、真の能力が身につくという点が、1つの転生系のフォーマットに根付いている。藤本が意識的だったとは思わないものの、このフォーマットを流用することで、死を契機として転生する物語が現代において人気を得やすい現象を研究する際に、本作や藤本タツキの存在も有用となるだろう。

『チェンソーマン』は制作会社のMAPPA単独出資の作品ということでも、かなり力が入っている。テレビアニメとしては屈指の作品であることは間違いない。今後もどのような表現が飛び出すのか、楽しみにしていたい。

参照

・https://www.mensnonno.jp/lifestyle/culture/255627/area03/
・https://realsound.jp/movie/2022/10/post-1155971.html

■放送・配信情報
『チェンソーマン』
テレビ東京ほかにて、毎週火曜24:00〜放送
Amazon Prime Videoにて、毎週火曜25:00〜最速配信
各プラットフォームにて、毎週水曜25:00〜見逃し配信
キャスト：戸谷菊之介（デンジ）、井澤詩織（ポチタ）、楠木ともり（マキマ）、坂田将吾（早川アキ）、ファイルーズあい（パワー）、伊瀬茉莉也（姫野）、高橋花林（東山コベニ）、八代拓（荒井ヒロカズ）、津田健次郎（岸辺）、内田真礼（天使の悪魔）、花江夏樹（サメの魔人）、内田夕夜（暴力の魔人）、後藤沙緒里（蜘蛛の悪魔）、大地葉（沢渡アカネ）、濱野大輝（サムライソード）
原作：藤本タツキ（集英社『少年ジャンプ＋』連載）
監督：中山竜
脚本：瀬古浩司
キャラクターデザイン：杉山和隆
アクションディレクター：吉原達矢
チーフ演出：中園真登
悪魔デザイン：押山清高
美術監督：竹田悠介
色彩設計：中野尚美
画面設計：宮原洋平
音楽：牛尾憲輔
オープニング・テーマ：米津玄師「KICK BACK」
挿入歌：マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
エンディング・テーマ：
ano「ちゅ、多様性。」
Eve「ファイトソング」
Aimer「Deep down」
Kanaria「大脳的なランデブー」
syudou「インザバックルーム」
女王蜂「バイオレンス」
ずっと真夜中でいいのに。「残機」
TK from 凛として時雨「first death」
TOOBOE「錠剤」
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
PEOPLE 1「DOGLAND」
マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
アニメーションプロデューサー：瀬下恵介
制作：MAPPA
©藤本タツキ／集英社・MAPPA
公式サイト：https://chainsawman.dog/
公式Twitter：@CHAINSAWMAN_PR