『そして、バトンは渡された』は“ミステリー的”? 永野芽郁が築いていく温かな人間関係

『そして、バトンは渡された』が築く人間関係

 これは本作をこれから観る方に向けた記事なので、作品の世界に入っていきやすいよう、せっかくだからキーとなる人物紹介をしてみたい。まずは主演の永野芽郁が演じる森宮優子。物語の冒頭で分かることなのだが、彼女はいつも笑顔を絶やさないキャラクターで、辛いときこそ笑う。同級生たちからの嫌みもポジティブに受け流す性格のため、それがかえって嫌みな言動として周囲に受け止められてしまう、器用なのか不器用なのか分からない少女だ。恐らく後者だろう。そして優子のこの人格形成に何が影響しているのかは、田中圭が演じる父親のことをなぜか彼女が「森宮さん」と名字で呼ぶ理由とともに判明してくる。それはまさにミステリー的なものであるのだ。

 そしてもう一人、石原さとみ演じる梨花という女性にも触れておこう。本作で展開する2つの物語を便宜上、「優子パート」「みぃたんパート」としたときに彼女は、後者の最重要人物である。先述しているように、稲垣来泉が演じる少女・みぃたんの母親だからだ。あまりに自由奔放な性格の彼女は、後先のことを考えない猪突猛進型で、派手でガサツなところがある。目的のためなら手段を選ばない人物であり、言動がいちいち突飛で、本心がどこにあるのか分からない。しかしその理由もまた、“2つの物語”の結び目が見えてきたときに判明する。彼女は存在そのものが「ミステリー」だといえるかもしれない。

 さて、「ミステリー」という言葉を何度も使ってしまったが、とはいえ『そして、バトンは渡された』をジャンル分けするならば、やはり「ヒューマンドラマ」である。物語の展開とともに見えてくるのは、生活(=生きること)を慈しむ人々による、いくつもの温かな人間関係だ。「バトン」とは何なのだろうか。すべての謎が解き明かされたその瞬間、本作に冠されたタイトルが腑に落ちるはずである。ちなみに余談だが、この放送日の11月11日は、何の巡り合わせか“4つのバトン”が並んでいる。

■放送情報
『そして、バトンは渡された』
日本テレビ系にて、11月11日(金)21:00〜23:34放送
※放送枠40分拡大
出演:永野芽郁、田中圭、石原さとみ、岡田健史、稲垣来泉、朝比奈彩、安藤裕子、戸田菜穂、木野花、 大森南朋、市村正親
原作:瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫刊)
監督:前田哲
脚本:橋本裕志
音楽:富貴晴美
インスパイアソング:SHE’S「Chained」(ユニバーサルミュージック)
©︎2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

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