『PUI PUI モルカー』は毛並みにも注目! 小野ハナ監督が語るコマ撮りアニメの奥深さ

『PUI PUI モルカー』は毛並みに注目

コマ撮りには意識していないものが映り込む

――小野監督は以前から『ギャルと恐竜』のED映像や『ポプテピピック』でストップモーションアニメを地上波でやるということに挑戦されてきたと思いますが、『PUI PUI モルカー』以降、業界内の変化を感じることはありますか?

小野:やっぱりフェルトのコマ撮りアニメがかわいいということが、すごく広まったなという感じがします。あとは、これまでのコマ撮りは割と単発の作品が中心だったんですけど、シリーズでできるんだと業界内で認知されたのは大きいと思いますね。

――小野監督は2Dアニメーションも手がけていますが、ストップモーションアニメの面白いところはどこですか?

小野:やっぱり“そこにいる”ということですね。物語の中のタイムラインと自分たちは絶対に同時には共存できないんですけど、でも体がそこにあって、居場所もそこにあって、我々の作ったものが映り込んでいて、そういう関係性が半分リアルなんだけど、決して現実にはなり得ないというか。そのバランスが個人的には、非常に面白いなとゾクゾクするものがあります。あとは、絵だとこれを描こうと意識したものだけが画面に現れますけど、コマ撮りだと意識していないものも映り込んでいることがあって、そことのせめぎ合いもすごく面白いなと思います。

――意識していないものの映り込みは『PUI PUI モルカー』でもあるんですか?

小野:モルカーに関しては、一番わかりやすいのが毛並みなんですけど。本当にずっとふわふわしているんですね(笑)。人間でも髪の毛がまとまらなかったり、ちょっとアホ毛が出たりすることがあると思うんですが、モルカーも同じものを背負っていて。その時々のコンディションは、コントロールしようとしても完璧にはできないものなんです。なので、手入れもそうなんですけど、「今日元気?」みたいなことがどうしても生まれてきて。モルカーはいっぱい動くんですけど、骨として大きく太い腕を作るわけにはいかない形をしているので、すごく細いワイヤーが足に使われているんですね。それを何回も歩かせているので、結構な頻度で折れちゃうんですけど、その時にアニメーターさんが「ちょっとこの後のシーン、足がきついかも」と言って演技を落ち着かせたり、「このカットは折れないうちに乗り越えますね」ということがよくあります(笑)。

――モルカーのコンディションに合わせてお芝居を変えているんですね。

小野:アクロバティックなシーンだったり、早く走らなきゃいけないシーンの前には「1回引き取りまーす!」「また帰ってきました、よろしくお願いします」みたいな感じで、元気になった姿でまた難しいシーンに挑んでもらうことがありました。

――それは車とも共通している点ですね。

小野:そうですね、リアルメンテナンスです(笑)。

――演技に関しては細かく指示せず、アニメーターに任せているというのは、実写映画の脚本を書いている方のお話を聞いているみたいだなと思いました。

小野:そうですね。アニメーターさんの中で、生き生きと動かすなら、ここに中心を置きたいなとか、一瞬この表情を挟みたいというこだわりをそれぞれ持っていらっしゃるので、それを活かしたほうが絶対にパペットは生き生きと映ってくれるという信頼があります。

――モルカーの素材として、羊毛フェルトを使うことの利点があれば教えてください。

小野:フェルトは粘土のような柔軟さがあるのに、布の丈夫さが混在していて、非常に頼もしい素材です。例えば、ぬいぐるみであれば、型紙があって、平面的に表面を設定できますが、フェルティングには設計図がないんです。一刺し、一刺し、その形にちょっとずつ毛を運んでいって作るという感じなので、手順が直接的なんですよね。本当に針で毛をその場所に運んで作られた塊なんです(笑)。非常に自由度が高くて、モルカーが驚いて縦に伸びる顔があると思うんですけど、あれもフェルトの柔らかいけど、絡まっているので元に戻ることができるという性質をうまく活かした表情だと思います。

―― ポテトやシロモのあのギュッとなる驚き顔は、フェルトだからこそ実現した表情だったんですね。

小野:そうですね。本当に細かいところでいうと、毛並みをちょっと撫でるだけで、感情の起伏を表現できるという強みもあって。ただ立っているだけに見える場面でも、ちょっと撫でることによって、何か考えているんだなということが伝わる演技をさせられたり、そういう繊細な演出もできる素材で、非常に奥が深いものだと思いますね。

――毛並みに注目してもう一度観てみたくなりました。

小野:ぜひ毛並みを見てみてください。

――最後に、『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』の見どころを教えてください。

小野:物語的な部分では、見里さんと一緒にがっつり打ち合わせをしながらプロットを組んだので、アイデアの爆発力は保ちつつ、モルカーたちの毎日の暮らしにもスポットを与えられたのかなと思います。あとは、前シリーズでは、あまり細かく語られなかった人間との関係性も描けたと思いますので、その辺も楽しみにしていただけたらなと思います。

■放送情報
『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』
テレビ東京「イニミニマニモ」内にて、毎週土曜7:00〜放送
原案・スーパーバイザー:見里朝希
監督:小野ハナ(UchuPeople)
アニメーター:小川翔大、高野真、三宅敦子、垣内由加利、当真一茂、阿部靖子、小西茉莉花
美術:UchuPeople、アトリエKOCKA、パンタグラフ、スタジオビンゴ
音楽:小鷲翔太
音響:小沼則義
©︎見里朝希/PUI PUI モルカーDS製作委員会
公式サイト:https://molcar-anime.com/
公式Twitter:https://twitter.com/molcar_anime
公式Instagram:https://www.instagram.com/molcar_anime/

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