『君の花になる』は“8LOOMのストーリー”そのもの ドラマと現実の境目の曖昧さが魅力に

『君の花になる』は“8LOOM”そのもの

 ついに始まった、火曜ドラマ『君の花になる』(TBS系)。「ついに」と言わずにいられなかったのは、この物語がオンエア前から現実とリンクしてスタートしていたから。本作は、ある出来事がきっかけで挫折した元高校教師・仲町あす花(本田翼)が、崖っぷちの7人組ボーイズグループ“8LOOM(ブルーム)”の寮母となり、共にトップアーティストになる夢を追いかける物語だ。

 もちろんフィクションではあるものの、劇中に登場する8LOOMは、佐神弾(高橋文哉)、成瀬大二郎(宮世琉弥)、古町有起哉(綱啓永)、一之瀬栄治(八村倫太郎)、桧山竜星(森愁斗)、久留島巧(NOA)、小野寺宝(山下幸輝)が、実際に2021年10月にオーディションを受けて結成されたグループ。今後、期間限定でドラマと連動してライブやイベントなどグループ活動をしていくという。

 オンエアに先駆けて、9月21日にはデビューシングル「Come Again」を配信リリース。TBSのオンラインショップには、ジャンボうちわやアクリルスタンドなどのグッズも現実のアイドルグループ顔負けの充実ぶりだ。(※1)さらにオーディションから緊張の初顔合わせ、ダンスレッスンにレコーディング風景、MVのメイキングなど、『君の花になるまでの365日』としてビハインドムービーがたっぷりとYouTube公式チャンネルに公開されている。(※2)

 そこに映し出されているのは、ドラマ出演をかけて本気で取り組む若手俳優たちの真剣な眼差し、同じグループのメンバーとして少しずつ育まれていく絆、そして限られた期間を全力で駆け抜けていく青春感。ドラマなのか現実なのか、その境目の曖昧さがこのドラマならではの面白さ。しかも、8LOOMの良きライバルである後輩グループのCHAYNEY(チェイニー)を演じるのは、実在のグローバルボーイグループ・INIの木村柾哉、髙塚大夢、田島将吾、藤牧京介、松田迅。彼らもオーディション番組をサバイブしてきた語り尽くせぬ背景を持っているのだが、それはまた別のお話……。

 すっかり前置きがかなり長くなってしまったが、ボーイズグループを輝かせ、応援せずにはいられなくなるのは、彼らを取り巻く“ストーリー”にあるように思うのだ。そして、このドラマこそ8LOOMのストーリーそのもの。第1話で描かれたのはリーダーとなる佐神弾(高橋文哉)の葛藤だ。学生時代から地道に続けてきた作詞作曲。しかし人前で歌うことはなく、音楽室でこっそりと練習を続けていた。そんな日々を打破してくれたのは、副担任のあす花の「最高ー!」という明るい声掛けだった。

 あす花に背中を押されて夢を追いかける勇気が持てたのだろう。しかし、ようやくデビューができるというとき、すでにあす花の姿はなかった。加えて、デビューはしたもののメンバーとの衝突が起き、1人が脱退してしまう事態に。リーダーとしてグループを立て直すきっかけを掴めない苛立ちから、メンバーとの距離はさらに広がるばかり。みんなのモチベーションは下がる一方で、半年後には契約解除のピンチにまで陥ってしまう。

 そんなとき、やってきたあす花との運命的な再会。突然、学校から消えてしまったあす花の事情を知るすべがなかった弾は、複雑な心境を隠しきれない。あす花も「教師になる」という夢を叶えた先輩として、まっすぐに応援していたあの頃の自分とは違うのだと自覚している。

 しかし、だからこそ弾の夢を応援したいという想いがより一層強くなる。辛いのならば逃げてもいい。それで楽になることもあることを知っているから。だが、逃げた先に別のやりたいことが見つからなかった自分のようにはならないでほしい。そんな後悔だけはしないと胸を張って言えるのならば、どんな選択をしても応援していくと、再び背中を押すのだ。

 挫折を知ったからこそ出てくる言葉がある。きっと今の弾にとっては、あのまま順風満帆に過ごしていたあす花の言葉では、また別の意味で素直に聞くことができなかったのではないだろうか。人生はうまくいくことばかりではない。ましてや、一握りの人にしか掴めない夢ならばなおのこと。それでも這い上がっていこうという気持ちにさせるのは、同じくらいの熱量で苦い思いを共感してくれる存在なのかもしれない。

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