『舞いあがれ!』でも古舘寛治の“職人芸”が見られるか 朝ドラ連続出演の信頼と安心感
前作『ちむどんどん』(NHK総合)のクライマックスでサプライズ的に登場し、『舞いあがれ!』ではレギュラーメンバーとして出演する古舘寛治。驚きの、続けざまの、朝ドラ連続登板だ。日本が誇る“真のバイプレイヤー”である彼は、今作ではどのように魅せてくれるのだろうか。
『ちむどんどん』での古舘の登場は、本当に驚きだった。ヒロイン・暢子(黒島結菜)が仲間たちとともに試行錯誤を重ね、自分の店である沖縄料理屋「ちむどんどん」を再オープンさせたその日、1人目に訪れたのが古舘演じる藤田だった。暢子たちと視聴者が固唾を飲んで店の入口を見つめる中、やってきた初めての客。ひじょうに重要な役どころである。しかし同時に、この藤田は物語の本筋に関わるわけではないのだから、誰が演じてもかまわない役でもある。驚かされたのは、古舘の登場そのものにではない。劇中での彼のあまりにも自然な振る舞いに対してだ。藤田にはほとんどセリフが用意されておらず、基本的に許されているのは食事をとる行為だけ。この制限の中で、どのように自身の役をシーンにアジャストさせ、物語の本筋の“背景”となることができるか。ただやってきて、食べて、去ることだけを課せられた役とはいえ、巨大なセットの中でカメラは回り、その奥にあるはずの全視聴者の視線が彼の一挙一動に注がれている。誰にでもできる芸当ではもちろんなく、やはりそれ相応の場数を踏んだ“ベテラン”こそが魅せてくれる業だと感じた。
古舘が『舞いあがれ!』で演じるのも、また口数の少なそうな男である。1990年代半ばの東大阪と長崎・五島列島が舞台の本作は、現在、おもに後者で物語が進行しているところ。古舘が演じるのは、ヒロイン・舞(福原遥)の父が経営する東大阪のネジ工場のベテラン職人・笠巻久之だ。工場の経営者である舞の父・浩太(高橋克典)を誰よりも支えてきた男という設定のようだが、本作での古舘の業を堪能できるのはもう少し先のことになるのかもしれない。
本作の公式ガイド『連続テレビ小説 舞いあがれ! Part1』(NHK出版)にて古舘は、自身の役について「今回は寡黙な職人です。寡黙……そこが難しい。意外と私はおしゃべりなんです。でも寡黙ということはセリフが少ない。セリフが少ないのは大好物です(笑)。今回はどこまで職人に見えるか? 本物の職人に見えるように、『あの人、本物使ってるよね?』と言われるところを目指します」と語っている。ここで出演の背景にまでは触れないが、『ちむどんどん』で演じた藤田も“寡黙”な男だった。彼はあくまでもいち“通りすがりの人”に徹しきっていたが、今回も物語の本筋にはそこまで絡むことなく、作品の一部となることに徹するのだろうか。とはいえ、そういったところにこそベテランの業(=職人芸)は垣間見えるものである。