『一橋桐子の犯罪日記』“ムショ活”は決して他人事ではない 切なく愛しい松坂慶子の魅力

『一橋桐子』が描く他人事ではないムショ活

 自身がパートに勤める“ムショ帰り”と噂のパチンコ屋の上司・久遠(岩田剛典)によれば、刑務所では季節感のある食事が1日3回提供され、軽作業でわずかながら報酬も出るし、身体が弱れば介護もしてもらえるという。そんな「身寄りのない老人にとっては天国とも言えなくもない」場所を終の住処と決めた桐子は、万引きに紙幣偽造となるべく人に迷惑をかけない犯罪に手を染めるがすべて失敗。

 たまたま居合わせた高校生・雪菜(長澤樹)の「寂しいとか世間が冷たいとかそんなの関係ないのこっちは」「人間やっていいことと悪いことがある」というど正論を浴びながら、先行きの不安にただただ打ちひしがれる桐子の涙が胸に迫る。お金もない、身寄りもない。唯一の希望をも失った彼女にかけてあげられる救いの言葉が思い浮かばないことが何より悲しい。刑務所よりも恵まれた環境に誰もが身を置けるとは限らない今、桐子を目の前にしたら、雪菜のようにムショ活を応援してあげられることしかできないんじゃないだろうか。

 どんどん追い詰められていく桐子の姿に、いつか自分も……と誰もが身につまされた第1話。笑えない状況の中で唯一救いだったのは、桐子のキャラクターだ。本人が「子供の頃からなんの取り柄もない」と語る桐子はたしかに不器用でちょっと鈍臭くて、見ていてハラハラさせられる。だけど、それが逆にチャーミングで不思議と手を差し伸べたくなるのだ。実際に、三笠も恋愛感情を抜きにして桐子のことを気にかけてくれているし、不動産屋の相田(神田伸一郎)もなんだかんだ言いながら世話を焼いてくれている。

 そんな桐子の放っておけない魅力を知子は分かっていたから、俳句は続けることを約束させたのではないだろうか。人と繋がっていさえすれば、誰かが桐子を助けてくれると確信していたから。知子の私物は全部娘夫婦に持っていかれたけど、目に見えない多くのものを桐子に残してくれた。その一つが、「桐子は笑って長生きしてね、約束よ」という言葉。桐子はそんな知子との約束があるからこそ、生きることを諦めないでいられる。そのために選んだ道がムショ活だったとしても、それを通してまた、久遠や雪菜といった普通に生きていたら出会わないような人たちに巡り会えて新しい世界が広がった。

「雨に泣き / 風に笑えよ / 桐の花」

 知子が綴った別れの一句は、桐子の今後の人生をどこか予感させる。

■放送情報
土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』
NHK総合にて、毎週土曜22:00~22:49放送(全5話)
出演:松坂慶子、岩田剛典、長澤樹、片桐はいり、宇崎竜童、木村多江、由紀さおり、草刈正雄ほか
原作:原田ひ香『一橋桐子(76)の犯罪日記』
脚本:ふじきみつ彦
音楽:長谷川智樹
制作統括:高橋練(NHKエンタープライズ)、清水拓哉(NHK)
プロデューサー:宇佐川隆史(NHKエンタープライズ)
演出:笠浦友愛、黛りんたろう、加地源一郎
写真提供=NHK

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