千束とたきなが最高に魅力的な『リコリス・リコイル』 大ヒット作となった要因を考える
目下クライマックスを迎えている『リコリス・リコイル』は、2022年の夏シーズンに放送が始まった多くのアニメの中でも群を抜いて注目度と話題性が高い作品だ。
ライトノベルや漫画の原作を持たないオリジナルアニメで、原作既読組という視聴者が存在しない分、物語の結末が読めない、次回はどんなふうに話が転がるか予測できない、などの期待感とメリットがある。しかし一方で、こうしたオリジナル企画のアニメは、よほどキャラクターの良さとドラマ性の高さが周知されないと、発行部数何万部といったメジャーな原作付きアニメ群の中に埋もれてしまうことが多い。事実、作品そのものは高いポテンシャルを秘めていながら、あまりヒットしなかったオリジナルアニメは過去にたくさんあった。そんな中でこの夏、突如現れた『リコリス・リコイル』の大躍進は目を見張るものがある。何がそこまでこのアニメを押し上げたのだろうか。
そもそも『リコリス・リコイル』とはどんなアニメなのか? 概要をざっくりと記しておこう。日本の治安を陰ながら守るため、人知れず犯罪者を始末してきた治安維持組織Direct Attack、通称DA。そのDAから殺しのライセンスを得て秘密裏にテロリストたちを射殺している実務部隊リコリスは、街中に溶け込みやすい高校生風の制服を着た女性で構成されている。命令違反でDA本部から左遷された井ノ上たきなは、ベテランリコリスの錦木千束が勤務しているDA支部の和風喫茶リコリコへ転属を命じられ、千束から学びながら人間的に成長し、また互いの絆を深めて行く。
まず本作で第一に目を惹くのはキャラクターたちの可愛らしさだ。キャラクターデザインに漫画家のいみぎむるを起用し、美少女ガンアクション物の“美少女”の部分を難なくクリアしている。またメインアニメーターの沢田犬二は、本作と同じ制作会社A-1 Picturesのラブコメアニメ『エロマンガ先生』でも美少女作画の分野で手腕を発揮していた。とはいえ、「作画が上質でキャラクターが可愛い」だけで大ヒットするほど昨今のアニメ事情は簡単ではなく、いかに登場人物が魅力的かも大きな要素だ。だがその点でも『リコリス・リコイル』は人物描写が良く出来ている。
誰かを手助けしたいという信条とともに、人命を重視する千束は、殺傷能力のない特製の銃弾を使っている。そして人との絆を重んじるポジティブ思考で生きている。これは心臓手術で生きながらえることができた彼女が、自分を支援してくれた人がそうだったように、誰かを助けることで世の中の役に立とうと思う信念の表われからだ。こうしたバックボーンを描くことで、彼女が不殺を貫いて任務にあたる姿に視聴者も共感できる。
もうひとりの主人公たきなは、当初はその場でもっとも合理的な方法を取るべきという考えで無駄なことを嫌う堅い少女だった。DA本部に復帰することに固執していたが、第3話で復帰が絶望的と知った時、「今は次に進む時。失うことで得られるものもあるって」と励ましてくれた千束の言葉に心を動かされ、自分の居場所を見つけていく。千束がたきなを抱きしめている姿を見た他のリコリスから冷やかされても、千束は堂々とたきなを抱きかかえて「私は君と会えて嬉しい! 嬉しい、嬉しい!」と満面の笑みを見せる。人間は他人から冷やかされると、つい本心と正反対の行動を取ってしまいがちだが、こういうところでも物怖じせず心から相手に気持ちを伝えられる千束の心の美しさが光る。また、この場面で千束を演じる声優の安済知佳の演技が素晴らしいのだ。