『初恋の悪魔』数分の間に起きた弓弦の豹変 坂元裕二が描いてきた暴力的な他者との対峙

『初恋の悪魔』数分に起きた弓弦の豹変

 悠日と鹿浜が雪松を逮捕に向かう場面でエンドロールに切り替わり、最後の数分で弓弦の豹変が描かれる。「おにぎり」というもっとも日常的な食べ物を咥えながら、ハサミという凶器を持って襲いかかる弓弦の姿は、犯罪と同じ比重で食事シーンを描いてきた本作をもっとも象徴する存在だと言えるだろう。

 放送を観終えて最初に感じたのは、火傷の痣を見るまで弓弦が犯人である可能性について全く考えずに自分がドラマを観ていたことに対する驚きだ。雪松の殺害シーンが静止画の連続だったことが妙な違和感となって残っていたため、弓弦の証言を聞いた悠日たちの想像でしかなかったことを表現していたことは、後から考えると納得できるのだが、会話の情報量の多さとテンポの良さに押されて、いつの間にか見逃していた。何より、雪松を逮捕するという物語に酔って見えなくなっていたのだろう。

 どんなに客観的に全体を観ているつもりでも、人は信じたい物語を信じて動いてしまう。弓弦の証言を盲目的に信じてしまった鹿浜たちを通して、先入観や偏見から逃れられることの難しさを追体験させられた苦い回だった。

 最後に、弓弦の姿を見て『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)の三崎文哉(風間俊介)、『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)の雨木太郎(杉本哲太)、『カルテット』(TBS系)の来杉有朱(吉岡里帆)といった、過去の坂元裕二作品で描かれてきた、理解の及ばない暴力的な他者たちのことを思い出した。

 「理解の及ばない他者といかに向き合うべきか?」というのは坂元裕二作品に通底するテーマだ。仮に生まれついてのシリアルキラーがいたとしても、殺人の動機や理由を「考えることを放棄してはならない」と鹿浜が言う場面にそれは強く現れている。

 だが同時に、自分たちの常識の範囲に相手を押し込み、理解したつもりになる傲慢さも、坂元裕二は認めない。だからこそ、三崎文哉たち暴力的な他者との対峙は、苦い断絶として常に描かれてきた。

 ついに最終回。鹿浜たちは弓弦という他者と、どう向き合うのか?

■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
公式Twitter:@hatsukoinoakuma
公式Instagram:@hatsukoinoakuma_ntv

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