『ピノキオ』実写版と1940年版の決定的な違いは? ロバート・ゼメキスの職人技が随所に

『ピノキオ』実写版の狙い

 幾度も映像化されてきた『ピノッキオの冒険』にまつわる作品を語る上で、その基準をカルロ・コッローディの原作文学に置くべきか、ベン・シャープスティーンとハミルトン・ラスクが作り上げたディズニーアニメ屈指の名作『ピノキオ』(以下、1940年版)に置くべきかとついつい悩んでしまうのは、それだけ1940年版が秀でているからにほかならない。いとも鮮やかに翻案し、それでいてこの上なくファンタジックな1940年版は、もはや原作から独立した作品と言ってもいいだろう。

 言わずもがなアニメーション史にその名を刻む名作であり、またあまりにも有名なテーマ曲が現在もディズニー映画のオープニングロゴに使用されているように、ディズニーにとっても宝物のような作品であるに違いない。それをあえて実写化するということは、それこそ社運を賭けた一大プロジェクトとなって然るべきものである。ところが監督がなかなか決まらないなどの紆余曲折で制作は遅れ、挙句コロナ禍によって劇場公開が見送りに。なんと残念なことか。

 撮影が本格的に始まった段階で、映画館のスクリーンではなく、家庭のテレビサイズの作品になることが決まっていたと考えると、ややこぢんまりとした、実写といえども随分とアニメーションライクな画面に落ち着いたことも納得がいく。ただここ数年のディズニーの名作アニメの実写化といえば、『アリス・イン・ワンダーランド』や『マレフィセント』のようなものや、ケネス・ブラナーの美学にあふれた『シンデレラ』は別としても、『ジャングル・ブック』、『美女と野獣』、『アラジン』、『ライオン・キング』と、かつてはアニメーションでしか実現し得なかったものが実写でできるのだという技術力の進歩を発表する格好の舞台となっている。

 その流れを踏まえると、果たして本当にこれでよかったのだろうかという疑問は尽きない。冒頭から「星に願いを」を歌い上げ、1940年版同様ストーリーテラーを務めて物語を始めるジミニー・クリケット。魔法によって動き出すピノキオ。その画面にはさしたるサプライズは存在せず、基本的に1940年版と同じ手順でストーリーが運ばれていくに徹する。ディテールを辿れば、子どもがいない設定だったゼペットが子どもを“失った”人物として描かれ、ストロンボリの劇団で足の不自由な少女と心を通わせたり、カモメにソフィアという名前が与えられて活躍を繰り広げたり、プレジャー・アイランドは全面禁煙となって子どもたちはルートビアをしこたま飲むといった筋書きとしての奥行きはあるが、肝心の視覚的な奥行きは驚くほど弱いのである。

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