『プリズム』最終回が放った色とりどりの光 杉咲花×藤原季節×森山未來の名演に寄せて

『プリズム』最終回が放った色とりどりの光

 そんな3人が出会い、ガーデンの完成を目指す過程で、彼らを大切に守っていたガラスに少しずつヒビが入っていった。最後の最後にガラスを割ったのは皐月だ。変化を受け入れ、その代償として傷を負いながら陸を愛し抜いた。その結果が、自分の望むものでなかったとしても。

 皐月が陸の実家を訪れていた頃、陸と悠磨は思い出の大学にいた。色んなしがらみを捨て、自分たちが幸せになれる方法を見つけるため。彼らはたしかに強く愛し合って“いた”。しかし、不本意な形で引き裂かれたことにより、互いへの思いがいつしか執着や未練となって自分たちを苦しめるものになってしまっていたことに二人は気づく。

プリズム

 もう、それも手放すべき時がきた。陸と悠磨は思い出だけをその場所に閉じ込め、今度はちゃんとお別れをして互いを新たな道へと送り出す。

「植物はいつか必ず枯れます。でも、枯れることも咲くことの一部なんです。そこからまた、咲くこともできるって陸さんが教えてくれたんです」

 皐月がガラスの中に描いた世界はそこから飛び出し、陸の世界と混ざり合って、一つのガーデンとして完成する。「新たな多様性が立ち上がってくるかもしれない」と悠磨が弱りかけたオリーブの木を植えたその庭には、耕太郎、信爾、梨沙子の姿があった。他の人にはわからない、もしかしたら理解されないかもしれない。だけど、違うもの同士の彼らはそこに隣り合っているだけで助け合っている。

 皐月、陸、悠磨も本心でぶつかり合った末にそういう関係になれた。感謝や愛情、新たな門出を応援する気持ちなど、様々な意味が込められた、互いを慈しむような別れのハグに“共存”とは何かを教えられたような気がする。

 もちろん、自分とは違う価値観を受け入れるのは難しい。陸の義母・章子(霧島れいか)の言葉通り、朔治はこの物語の中では息子の生き方を100%認めることはできなかった。でも、彼が何も言わず、融資を再開したように少しずつでも変わっていけたらいい。

 今年11月からはセクシャルマイノリティのカップルを公的に認める東京都の「パートナーシップ宣誓制度」が導入される。住宅の購入がしやすくなる、生命保険の受取人に同性パートナーを指定しやすくなる、などのメリットがあるこの制度を耕太郎と信爾は利用することになった。ただ法的効力はなく、「一度でいいから結婚のまね事、してみたかった」という信爾の言葉には複雑な気持ちも含まれていたように思う。いつしか同性婚が認められる日も訪れますように。

プリズム

 また新たな命を宿した綾花(石井杏奈)は、結婚の条件として剛(寛一郎)に産休・育休の取得を要求。実は昨年6月に育児・介護休業法を一部改正する法律が交付され、4月より段階的な施行が進んでいる。育休がより取得しやすくなったことに加え、新たに子どもの出生後8週間以内に最大4週間の休業を取得できる「産後パパ育休制度」が創設された。これが別名「男性版産休」と言われており、剛はこの制度を利用すると思われる。世間一般の“普通”に囚われていた彼の変化が感慨深い。

 皐月、陸、悠磨はその後どうなったかというと1年後に再会。皐月が修行の末にガーデナーとして初めて任された庭の整備に、陸と悠磨が力を貸すことになった。一度は終止符を打った3人の関係がまた始まる。本作はそんな彼らの姿を閉じ込めたテラリウムのカットで幕を閉じた。でも、どこかで皐月たちの物語はこれからも続いていく。

 私たちが生きるのも、色とりどりの光を放てる“プリズム”のような世界だったらいい。そのためには、絶えず変化していく日常を愛する他ならない。異なる価値観や生き方を受け入れ、誰もが幸せを思いきり享受できる世界に変えていけたら――。

 その先にはきっと、大きな虹がかかった見たこともない景色が広がっているはずだ。

■放送情報
ドラマ10『プリズム』
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送<全9回>
出演:杉咲花、藤原季節、森山未來ほか
作:浅野妙子
音楽:谷口尚久
制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、岡本幸江(NHK)
写真提供=NHK

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