杉咲花の言葉が心に残り続ける 『プリズム』が描く“愛”という感情のままならなさ

『プリズム』が描く“愛”のままならなさ

「ケンジ、ケンジ、ケンジ、死なないで。目を覚まして。私も連れていって、私も一緒にいく。あなたなしじゃ生きていけない」

 9月13日に最終回を迎えるNHKドラマ10『プリズム』初回は、杉咲花演じるヒロイン・前島皐月のそんな第一声から始まった。この台詞は、声優を目指して養成所に通っていた皐月が、オーディオドラマの声優オーディションを受けていて、そこで与えられた台詞に過ぎない。だが、杉咲花の少し震えるような、それでいて凛とした深く響く声は、おずおずと選考者たちの顔色を窺う表情とともに、妙に心に残った。序盤の彼女は、どこか、冒頭の台詞が重なるような生き方をしていた。

 父親・耕太郎(吉田栄作)とパートナー・信爾(岡田義徳)との関係性も、就職先も、瞬く間に恋に落ちた陸(藤原季節)にリードされ、守られながら、すべてがうまく運んでいくヒロイン像はまさに、「あなたなしじゃ生きていけない」状態だった。本作は、そこからの脱却の物語でもある。「なんでもいいから選ばれたかった」ヒロインは今、自分の人生は自分で選び、掴み取る強さを持っている。やりたかった造園業の仕事をするために、ちょっと笑ってしまうほど強引に採用担当に迫る場面からもわかるように。

 皐月と陸、悠磨(森山未來)の3人を繋げる庭やテラリウムの緑が目に優しい本作は、植物が持つ「違うもの同士が、そこに隣り合っているだけで助け合っている」共存の関係性と、人の手が加わることでその集合体となった里山/庭の多様性を理想とする人々が、その関係性に向かっていく物語だ。その一方で、それぞれの内側にあるドロリとした感情も垣間見え、その絶妙なバランスが心地よい。

 例えば、母親・梨沙子(若村麻由美)と父親・耕太郎とパートナー・信爾との関係が、そのまま娘・皐月と恋人・陸、陸の忘れられない人・悠磨との三角関係へと引き継がれたことに、言葉にせずとも母と娘、そして父の深い因縁を感じさせる。ただ、それはあくまで事象のみでそれ以上の執拗な言及はなく、母、父、パートナーがそれぞれの立場に立ったいいアドバイザーとなって、子供世代の恋愛の後押しをしている。剛(寛一郎)を巡るやり取りで明らかになった綾花(石井杏奈)の中に芽生えた皐月に対する嫉妬心をひっくるめた、親友・皐月と綾花の関係性の素晴らしさもある。

 手掛けたのは『純情きらり』(NHK総合)、『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)などの浅野妙子(第5話以降は原作となっており、久世寝子、ねじめ彩木が脚本を手掛けている)。浅野が捉える、人の心の奥底から静かに湧き上がってくる感情のうねり、情念の炎を切り取った場面は、時に何年経ってもはっきりと甦ってくる鮮烈さを持っている(例えば『純情きらり』における木村多江演じる戦死した戦友の姉の言葉のように)。また、演出陣に、映画『ふがいない僕は空を見た』、『マイ・ブロークン・マリコ』の監督を務めたタナダユキが加わっていることも興味深い(演出は船谷純矢、タナダユキ、金澤友也、西谷真一の4人体制)。

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