第79回ヴェネチア国際映画祭受賞結果を総括 米アカデミー賞に与える影響も増加の傾向に

第79回ヴェネチア映画祭受賞結果を総括

 さて、その8作品のうち主要な賞を受賞したのは3作品。銀獅子賞(監督賞)とマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞したルカ・グァダニーノ監督の『Bones and All(原題)』は、カミーユ・デアンジェリスのYA(ヤングアダルト)小説を原作に、カニバリズムを題材にした作品。ティモシー・シャラメとグァダニーノの再タッグは話題性十分で、今回の受賞結果が示す通りの評価の高さでは頭ひとつ抜けているが、作品のタイプ的にもグァダニーノという作家の作風からもアカデミー賞よりも映画祭での評価のみに留まってしまう可能性は考えられる。

『TÁR(原題)』©2022 FOCUS FEATURES LLC.

 対照的に、女優賞を受賞した『TÁR(原題)』のケイト・ブランシェットは、主演女優賞レースの最有力に躍り出たと断言できる。アカデミー賞と相性の良いトッド・フィールド監督の15年ぶりの作品で、ブランシェットが演じるのは名門オーケストラの女性首席指揮者となる世界的作曲家。今回の高評価で作品自体も他部門への善戦が大いに期待される。そしてコリン・ファレルの男優賞と、脚本賞の2部門を制したマーティン・マクドナー監督の『イニシェリン島の精霊』も同様だ。『スリー・ビルボード』につづいての脚本賞受賞。毎年有力作を輩出するサーチライトは、先日行われたテルライド映画祭で大絶賛されたサム・メンデス監督の『エンパイア・オブ・ライト(原題)』と、この『イニシェリン島の精霊』の二本柱でいくことになるだろう。

『イニシェリン島の精霊』 Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2022 20th Century Studios All Rights Reserved.

 一方、複数の作品をお披露目したNetflix勢はどうか。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バルド、偽りの記録と一握りの真実』、アンドリュー・ドミニク監督の『ブロンド』、ノア・バームバック監督の『ホワイト・ノイズ』の3作が賞レースで有力視されていたが、いずれも不発。とりわけ『バルド』は「ロッテン・トマト」でも辛辣な評価が目立つ結果に終わっている。他の作品では、受賞に至らなかったもののダーレン・アロノフスキー監督の『The Whale(原題)』はブレンダン・フレイザーの主演男優賞レース参戦の目を残し、またフローリアン・ゼレール監督の『The Son(原題)』は平凡な評価に留まり一歩後退。今回のヴェネチアの結果と、現在開催中のトロント国際映画祭の結果で、第95回アカデミー賞の大枠は見え始めてくるはずだ。

『殺しの烙印』©日活

 ちなみに日本勢は、コンペティション部門に出品された深田晃司監督の『LOVE LIFE』、オリゾンティ部門に出品された石川慶監督の『ある男』と、共に受賞には至らず。吉報は、ヴェネチア・クラシックスの修復作品部門に出品されていた鈴木清順監督の『殺しの烙印』の4Kデジタル復元版が最優秀復元映画賞を受賞したことだ。5年前に逝去し、来年で生誕100年を迎える鈴木清順監督。これを機に世界的な再評価の機運が高まってくれることを願いたい。

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