『るろうに剣心 伝説の最期編』は現代と重なる作品? 佐藤健が表現する精神の成長

『るろうに剣心』第3作は現代と重なる作品?

 本作は、クライマックスに用意されている志々雄一派と剣心たちの本格的な激闘の前に、とても大切なシークエンス(エピソード)が時間をかけて丁寧に描かれている。それは剣心の精神的な成長だ。前作『京都大火編』で描かれたのは、彼が立てた「不殺の誓い」に対する心の揺らぎであった。幕末時代の剣心は、多くの人を斬り捨て、おびただしい量の血を浴びてきたのだ。いくら改心し、新しい時代で生きていく姿勢を変えたとはいえ、彼が残忍な人斬りであった過去は変わらない。「誓い」を立てたところで、果たして本当に彼はこの先の時代を歩んでいけるのだろうかーーそういった問いが、剣心本人と彼を囲む者たち、そして私たち観客みなの中に生じていただろう。本作はその“問い”の続きから始まるわけだ。物語は剣心の出自にまで及ぶ。刀を交えるということは、他者との命のやり取り。“殺”にせよ“不殺”にせよ、ハンパな精神状態では志々雄には敵わない。剣心の精神的な成長を見守ってほしいところだ。

 もちろん、『京都大火編』で初登場した四乃森蒼紫(伊勢谷友介)の存在も忘れてはならない。“最強”の称号を手にするために剣心を追う彼もまた、志々雄と同じく時代に取り残された存在だ。本作では時代が変わったことにより、見捨てられた者、適応できなかった者、新しい時代を諦めない者たちがしのぎを削る。そこで残るものはなんなのだろうか。剣心だけでなく、志々雄や蒼紫にも観客自身の心を投影してみてほしい。なにせ私たちの生きる現代は、動乱の世なのだから。

■放送情報
『るろうに剣心 伝説の最期編』
日本テレビ系にて、9月9日(金)21:00〜22:59放送 ※5分拡大
監督・脚本:大友啓史
脚本:藤井清美、大友啓史
原作:和月伸宏『るろうに剣心 –明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
出演:佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優、大八木凱斗、江口洋介、伊勢谷友介、土屋太鳳、田中泯、小澤征悦、藤原竜也、神木隆之介、滝藤賢一、丸山智己、高橋メアリージュン、福山雅治
アクション監督:谷垣健治
音楽:佐藤直紀
©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心伝説の最期」製作委員会

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