『るろうに剣心』は日本アクション映画の歴史を塗り替えた 最大の発明は“不殺アクション”

『るろうに剣心』を成功に導いた“発明”とは

 伝説の暗殺者・人斬り抜刀斎こと緋村剣心が、不殺の誓いの証である逆刃刀を手に、強敵たちと壮絶な死闘を繰り広げる。そんな『るろうに剣心』が実写化されると聞いたとき、不安に陥ったのは私だけではないだろう。たしかに『北斗の拳』や『ドラゴンボール』などの人知を超えたスーパーパワーが炸裂する漫画に比べれば、あくまで生身の人間が戦う『るろうに剣心』は実写にしやすい。とはいえ、かなりのレベルのアクションが求められるわけで、あの迫力を実写で再現ができるだろうか? そして実写の俳優が「おろ?」と呟く姿を直視できるだろうか? アメコミまんまのキャラが出てくるので、あまり目立つとマーベルなどに怒られるのではないか? ……直撃世代として、様々な不安があった。しかし、実際に完成した『るろうに剣心』(2012年)は、様々な不安を払拭する快作に仕上がっていた。そして間違いなく、日本のアクション映画の歴史を塗り替えた。今回は『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で同作が放送されるそうなので、改めてその魅力と個性について語っていきたい。

 緋村剣心(佐藤健)が、悪の商人である武田観柳(香川照之)a.k.a.回転式機関砲大好きっ子と戦う。さらには同じく人斬りで、もっと狂気度の高い鵜堂刃衛(吉川晃司)まで絡んできて……と、原作序盤を解体し、2時間に収まるように再構築したストーリーだ。映画『るろ剣』といえば前後編が当然になった現在に観直すと、1本にまとまった本作は記憶以上に駆け足感がある。予算の限界も目立つ。たとえば左之助(青木崇高)が愛用する巨大な斬馬刀がどう見ても軽そうとか、斎藤一(江口洋介)の必殺技「牙突」が異様にふんわりしているなど、とってもご愛敬ポイントである。しかし、同シリーズ最大の魅力、佐藤健のアクションは古びない。

 『るろうに剣心』が成功した理由は、間違いなくアクションの魅力である。立体的で手数の多い香港スタイルのアクションがなかったら、本作はここまでのヒットシリーズにはなっていなかっただろう。『るろうに剣心』は明治期の日本を舞台にした時代劇だが、そのアクションは完全な香港仕込みである。“宇宙最強”の異名で知られる俳優ドニー・イェンの盟友で、スタントマン/アクション監督の谷垣健治氏の功績だ。本作のアクロバットな集団戦の雛形になっているのは、谷垣氏も参加している香港映画『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』(2006年)だろう。しかも本作は、単に香港スタイルなだけではなく、『るろ剣』だけの個性を持ち合わせている。それが本作最大の発明、「刀で人を何回も叩いてボコボコにする」不殺アクションだ。

 普通、ソードアクションは斬ったら終わりである。これは日本でも香港でも変わらない。刃物で胴体を思い切り斬られたら、これはもう国籍も人種も問わず、世界共通で死ぬ。何なら一手で死ぬ。極端で分かりやすい例を挙げるなら、黒澤明監督の『椿三十郎』(1962年)だろう。最終対決は文字通り一撃必殺で終わってしまう。しかし『るろうに剣心』は逆刃刀という特殊なアイテムがあるので、ソードアクションでありながら、敵を一撃で殺さず、何回も繰り返し叩き斬れるのだ。これによってアクロバットで手数の多いアクションが実現している。剣心の不殺の誓いのおかげで、一周回って世界でも類を見ない狂暴なソードアクションが誕生したのだ。

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