『家庭教師のトラコ』福多が幸せになるために取った手段 橋本愛に残された唯一の希望とは

『家庭教師のトラコ』対照的な福多とトラコ

 遊川和彦による作・演出のドラマに多く共通しているのが、最終回前のクライマックスで主人公もしくは物語全体がどん底へと転落していく展開だ。9月7日放送のドラマ『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系)第8話はそれに当たる回だ。

 トラコ(橋本愛)は福多(中村蒼)から、幼少の頃にニッパーでトラコの自転車のブレーキを切り事故に遭わせたのは自分だという告白を受ける。それは福多が今の里親に拾われるために取った幸せになるための手段。その結果、トラコは独りになった。

 福多とトラコの人生は光と影のように対照的だ。もしかしたら自分がその光になれていたかもしれないのだと、トラコは福多の自白を聞き理解する。そして、福多に馬乗りになって感情を爆発させるのだ。それは20年近くの間、彼女の中に蓄積してきた憤りや恨み、味方だと信頼していたはずの福多から裏切られた失望。ボロボロと涙を流し、福多に怒りをぶつけるトラコが急に我に返っていく姿は、彼女の中にある深淵を覗かせる。オーバートップからニュートラルに変速するような、全てがどうでもよくなっていく様子は、彼女の心の傷の深さを物語っている。

 福多もまた自分が光を掴んだ太陽の存在として、日陰にいる月のトラコに日差しを与えようと必死に応援し続けてきた。後悔を引き連れながら。自分を顧みずにひたすら人に尽くしてきた福多は果たして幸せだったのだろうか。吐き捨てるようにつぶやく「あんたが何言っても、何言っても聞こえないんだよね」というトラコの一言が、福多の心に突き刺さる。

 前回明らかになったトラコの「正しくお金が使われる世界を作りたい」という思いは、障がい者支援団体への10億円の寄付として実現する。しかし、実態はトラコが里美(鈴木保奈美)の元夫で銀行の頭取である利明(矢島健一)を恐喝し奪った汚れたお金。トラコは正義だと疑わずに行動に移すが、福多たちから見ればそれは紛れもない犯罪であり悪。しかし、トラコにはまた独りになってでも決行しなければならない強い信念があった。幸せを諦めてしまったトラコを、3人の子供たちが説得に入っても、彼女の心は冷めきったまま。幼い知恵(加藤柚凪)を含めた子供たちを平然と「お前ら」と呼ぶ姿は強烈だ。

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