『モンスターズ・インク』が教えてくれる、恐怖に勝る相互理解 大人向け作品としての魅力
「悲鳴」ではなく「笑い声」を、にみるピクサー精神
さて、本作はそういった大人やビジネスマンに刺さる内容でありながら、映画としてのレイヤーは何層にも重なっている。モンスターが主人公のファンタジー作品であるだけでなく、一人の独身男性がある日子どもの面倒を見ることになって父性が芽生える物語でもあり、マイクという“コメディ担当の脇役”が最終的には現場の“主役”になる物語でもあるからだ。この作品の圧倒的な観やすさはは、彼らをアニメーションのモンスターではなく、実写の人間に置き換えてもドラマ部分が何も違和感なく運ばれることにある。
そしてお決まりのピクサーらしさとして、モンスターの物語をホラーではなくコメディとして打ち出した作風の深みも最大の魅力だ。私たちが「怖い」と決めつけた相手は、実は私たちのことを「怖い」と決めつけている。お互いに誰が言い始めたのかすらわからない、その固定観念をもつ者同士がある日の邂逅をきっかけに相互理解を深め、その恐怖心をなくすストーリーは奥が深い。本作で描かれる“無知なる恐怖”というテーマは、やはり何事も自分の想像や知識で勝手に決めつけやすくなる大人だからこそ振り返り、学び直す必要があるものではないだろうか。
加えて、本作は子供の「悲鳴」をエネルギーソースとして売り出す会社を描くわけだが、物語の後半で「悲鳴」よりも「笑い声」の方が10倍も高いエネルギーがあることが発覚する。恐怖によって無理やり捻出した力ではなく、相手を喜ばせる気持ちで生み出す“楽しさ”の方がパワーが強いというのも、自由な発想を重んじて数多くのクリエイティブな作品を輩出するピクサーならではのメッセージだ。
もちろん、他のピクサー作品のイースターエッグを探す面白さも欠かさない。ランドールが飛ばされたトレーラーハウスの下では、『バグズ・ライフ』の虫たちが集まっているという設定だし、トレーラーの横に停められた車は『トイ・ストーリー』に登場する「ピザ・プラネット」のものだ。ラストシーンでサリーがブーの部屋の中に入ると、そこにはスタジオを象徴するピクサーボールもあるし、次回作『ファインディング・ニモ』の主人公であるカクレクマノミのぬいぐるみがすでに忍ばされている。『モンスターズ・インク』は、まさにいくつものレイヤーで楽しませてくれるピクサー作品を象徴する映画と言えるだろう。
■放送情報
『モンスターズ・インク』
日本テレビ系にて、8月5日(金)21:00~22:54放送 ※本編ノーカット
声の出演:石塚英彦(ホンジャマカ)、田中裕二(爆笑問題)、井上愛理、青山穣、大平透、高乃麗、磯辺万沙子、立木文彦
監督:ピート・ドクター
共同監督:リー・アンクリッチ、デヴィッド・シルバーマン
製作総指揮:ジョン・ラセター、アンドリュー・スタントン
脚本:アンドリュー・スタントン、ダニエル・ガーソン
音楽:ランディ・ニューマン
(c)DISNEY/PIXAR