『ソー:ラブ&サンダー』贅沢な悪ふざけが楽しい 長大化するMCUの息抜きとなる一作に

『ソー:ラブ&サンダー』ポップに笑える快作

 『ソー:ラブ&サンダー』は、7月8日に公開されたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の最新作だ。タイカ・ワイティティ監督の得意とする、コメディタッチの軽さが売りの作品で、80年代から活躍するロックバンド、ガンズ・アンド・ローゼズの楽曲を使用した景気のいいアクションシーンも楽しめる。

 主役となるソー(クリス・ヘムズワース)の「ちょっと間の抜けたハンサム」という愛らしいキャラクターが、のびのびと描かれる作品だ。また劇中、同じMCUの人気キャラクター、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々も登場するが、ユーモラスな演技を得意とするクリス・プラットとのかけ合いは見どころで、大いに笑ってスッキリと気持ちよく映画館を出られる快作である。

 物語は、宇宙に散在する神々が次から次へと殺される事件で幕を開ける。首謀者は「神を虐殺する者」こと、ゴア(クリスチャン・ベール)。神殺しの剣ネクロソードを手にしたことで、強大な力を得たようだ。ゴアを倒すために立ち上がったソーだが、彼を探す旅の途中で、かつて自分が使っていた武器ムジョルニアを使いこなす髪の長い戦士と出会う。ヘルメットを外した女性を見て、ソーは仰天する。その女性とは、かつての恋人ジェーン(ナタリー・ポートマン)であった。

ソー:ラブ&サンダー

 ふたりは力を合わせてゴアを倒そうとするが、お互いに未練のあるソーとジェーンは、どこかぎくしゃくした距離感のままだった。強敵ゴアを倒すため、神々のまとめ役であるゼウス(ラッセル・クロウ)に協力を仰ぐソーだったが、その頼みは却下されてしまう。ソーはやむなくゼウスの武器サンダーボルトを盗み出し、ゴアとの戦いへと備えるのだった。

 SNSなどでMCUファンの意見を調べてみると、「確かに楽しいが、MCUのような大型作品と、タイカ・ワイティティのコメディは相性が悪いのでは」という反応が思いのほか多い。監督のコメディセンスは、もう少し小規模な作品でこそ光るのではないか、という指摘は確かに一理あるのだが、個人的には、ビッグバジェット作品で悪ふざけをするからこそ楽しく、痛快だ。長大化、大河ドラマ化していくMCUのなかで、軽くポップな笑いを見せてくれるというバランスが嬉しいのである。

 たとえば、ソーが敵とのバトルへ向かう場面で「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」が流れ、あきれるほど元気に飛び跳ねながら敵を倒していく様子。あるいは、ガーディアンズとの別れのシーンで、彼らと離れるのがさみしいソーが、ピーター・クイル(クリス・プラット)に向かって「それじゃ最後に握手、そしてアスガルド式の握手、からのヘビ、さらには1本指のハイタッチ……」としつこい時間稼ぎをしてあきれられるくだり。また、神々が集まる「全能の町」に登場したゼウスが、観衆の前でサンダーボルトを何度も放り投げてはキメポーズつきでキャッチする、無意味なパフォーマンス。そして、ものすごくうるさいヤギ。どれもが観ていて嬉しい気持ちになり、思わず「ばかだなあ」と笑ってしまうシーンばかりだ。

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