『ちむどんどん』明らかになった嘉手刈と房子、田良島との関係 津嘉山正種が与えた深み
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』も、季節に連動してついに沖縄戦について描き始める。第72話は、まさにその序章のような回だった。
東京から取材で沖縄入りをした和彦(宮沢氷魚)。マスコミは嫌いだと言い、話をしようとしない嘉手刈(津嘉山正種)から話を“聞き出す”と、電話越しに上司の田良島(山中崇)に伝えるが、すぐさま「聞き出すとか何様だ?」と叱咤される。そこで、和彦が感銘を受けた20年前の嘉手刈に話を聞いた記事を書いたのが田良島だったことがわかるのだが、彼は自分が記事を書いたことで「迷惑をかけた」と後悔に苛まれていた。「これだけは伝えてくれ、俺はずっと……」。そう、彼が話している途中で切れる、公衆電話。10円玉を余分に入れていなかったせいで、和彦は大事なことを聞きそびれてしまった。
そして改めて嘉手刈に向き合うと、和彦は父・史彦(戸次重幸)が沖縄の基地にいたこと、彼が民俗学者で、沖縄をライフワークとし、本を出す予定だったこと、沖縄で少しの間一緒に暮らしていたことなどを語り出す。父の意志を継ぎ、自分なりの沖縄に関する本を書こうと思っていると告げながら、今回の取材が田良島に送り込まれたものだと話すと「あんた、田良島さんの部下か」と、嘉手刈の様子は変わった。20年前に田良島が彼に何をしたのか聞くと、嘉手刈は語り出す。
「わしの親戚や友人には、いろんな立場の人がいて、あの戦争の話はもう思い出したくもないという人もいてね。アメリカ人相手と商売してね、生活をしてる人もいる。私のところに、文句を言いに来た人もいる。『取材を受けなければよかった』って一言、田良島さんに言ったら、それを田良島さん、ずっと気にしてるわけさ」
明らかになったのは田良島と嘉手刈の関係だけではない。和彦が家に入ってくるまでに嘉手刈が読んでいたのは、和彦が房子(原田美枝子)から預かっていたもの……手紙だった。そこには「でもこれで、本当の供養ができます」と、房子の文字が。聞いてみると、彼女はこれまでも毎年、嘉手刈の活動に多くのお金を寄付していたのだ。彼女が間に入ってくれたおかげで、沖縄戦による遺骨や遺品など、掘り出されたものが遺族の手に渡った。彼女が和彦に託した手紙は、それを受け取った本土の遺族のお礼の手紙だったのだ。
この不思議な巡り合わせと、ウークイという特別な日での出会いから、嘉手刈は和彦に徐々に心を開いていった。「あの戦争で人は人でなくなることをした。自分の子供に、あの時のことを話せない人もいっぱいいる。戦争を経験した人も、どんどん死んで、そのうち誰もいなくなる。なんとか伝えなくちゃいけない」と語る彼に、「過去を知ることが、未来を生きる第一歩だと思います」と答える和彦。父の果たせなかったことを、彼が記者という立場で実現させたいという意志が伝わると同時に、何かを“正しく伝えていくこと”という行為において、その正しさというものは一生をかけて考えなければいけない、という強いメッセージを受け取るシークエンスだった。
嘉手刈を演じる津嘉山の深みのある演技も、シーン全体に良い重厚感を持たせ、これまでコメディな雰囲気の多かった本ドラマを“締めた”ような印象だ。彼は九州国立博物館で現在開催されている「沖縄復帰50年記念 特別展『琉球』」で、仲間とともに音声ガイドのナレーションを務めている。ドラマでも発揮された静かな語り口を含む彼の真価は出身地・沖縄にまつわる、あらゆる場面で今堪能することができそうだ。